いまさら聞けないアクセシビリティをざっくりまとめてみた
アクセシビリティとはなにか
アクセシビリティは 「近づきやすさ」 や 「利用しやすさ」 を表す英単語です。
Webサービスの世界においては「情報やサービスへのアクセスのしやすさ」という意味合いで使われます。
アクセシビリティと聞くと「高齢者や障害をお持ちの方でも使えるようにすること」をイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。
(実はアクセシビリティを学ぶ前の私がそう思っていました。)
もちろんこれは重要な点ではありますが、本来の意味は「いかなる能力、環境、状況に関わらずサービスやコンテンツを利用できるようにすること」にあります。
アクセシビリティはすべての人にメリットがある?
例えば、このような経験はないでしょうか。
・ Webサイトをスマートフォンで閲覧したら、レイアウトが崩れていて読めなかった
・ 屋外でWebサイトを閲覧しようとしたが、日差しが画面に反射して薄い色の文字が読めなかった
・ 電車の中で動画を見ようとしたがイヤホンを忘れ、動画の音声を聞けなかった
もし上記のような体験になってしまったサービスが、「様々なデバイスに対応したレイアウトになっていれば・・・」、「文字と背景の色に高いコントラストがあれば・・・」、「音声コンテンツの代替として字幕がついていれば・・・」、情報やサービスにアクセスできていたはずです。
このように、アクセシビリティは障害を持つ方にのみ意味があることではなく、すべての人にとって意味があります。そのためアクセシビリティへの向き合い方としては、障害を持つ方が使えるように「対応」することではなく、すべての人が使える可能性を「高める」ことなのです。
なぜアクセシビリティと向き合うのか
その理由の多くは、以下の6つの点で語られます。
1. アクセスできる人を増やすため
2. 様々なデバイスに対応するため
3. SEO対策につながるため
4. ユーザー体験の向上・改善につながるため
5. 企画への対応のため
6. ブランディングのために取り組みをアピールする
これらについて、詳しく見ていきましょう。
1. アクセスできる人を増やすため
アクセシビリティが向上するとアクセスできる人の母数が増加します。
例えば色覚異常をお持ちの方。先天的なものは遺伝、後天的なものは加齢や目の病気が原因で起こります。先天的なものだけでも男性で20人に1人、女性で500人に1人の割合で起こると言われ、決して珍しいものではありません。色を主軸に状態を判別するような項目があれば、色覚異常をお持ちの方にとって非常に使いづらくなってしまう可能性があります。
このほかにも、日本語に慣れていない方や、屋外にいる、手を怪我した、パソコンの調子が悪い、メガネを忘れた、マウスを忘れたなど様々な状態に置かれることは誰にでもありえます。
このようなことから、障害をお持ちの方や高齢者のみならず、あらゆる人に恩恵をもたらし、アクセスできる人が増加する可能性があります。
2. 様々なデバイスに対応するため
時代の移り変わりとともに運営者が想定していなかったデバイスが登場することもあります。
一般に考えやすいデバイスとしてはPCやタブレット、スマートフォンが思い浮かびますが、テレビや、ゲーム機からもWebサイトにアクセスすることができます。
また、昔からあるデバイスでも見落とされることがあります。その典型例が 「印刷」 です。Webページがモノクロで印刷される、という状況は珍しくありません。例えば、きれいに色分けされたグラフだったり、状況を色の違いで伝えている場合、白黒で印刷されては色の持つ意味がわからなくなってしまいます。
それぞれのデバイスの違いについて、細かくすべてに対応するのは困難でも、そのような状況が考慮されていれば、違った解決策を取ることができるかもしれません。
3. SEO対策につながるため
Googleなどのサーチエンジンは、検索対象となるサイトのコンテンツを読み取り、データを蓄積しています。このとき、クローラーというユーザーエージェントがサイトにアクセスし、情報を取得しています。
アクセシビリティがサーチエンジンに与える恩恵は2つ存在します。
1つはサーチエンジンのクローラーがコンテンツの情報にアクセスできるようになることです。例えば、画像だけで構成されたページがあったとき、その画像に適切な代替テキストが指定されていなければ、サーチエンジンのクローラーはその画像を 「読む」 ことが困難になります。サーチエンジンのクローラーは、全盲のユーザーと同じような環境に置かれているのです。
2つ目は、コンテンツの意味が伝わるようになることです。サーチエンジンはコンテンツを解析して、キーワードの重みづけを行います。このとき、ページタイトルや見出し、リンク、強調箇所などがサーチエンジンに伝わらないと、適切な重みづけができなくなり、うまく検索できなくなる可能性があります。
4. ユーザー体験の向上・改善につながるため
ユーザーがサイトを訪問すれば体験が生まれます。
ここで注意が必要なのは「アクセスできなかった」というのも、ひとつの体験になるという点です。
以下のようなユーザー体験は最も避けたいものです。
・情報が得られない
・操作できない
・理解できない
ユーザーエクスペリエンスハニカムの7つの要素をピラミッドで示した図があります。アクセスできる前提があってこそ、使いやすい、役に立つ、価値があるという評価につながります。アクセシビリティはこのユーザー体験の土台と言えるでしょう。
5. 規格への対応のため
規格への対応が求められているため、取組みが行われることもあります。
2008年にW3Cの勧告となった「Web Content Accessibility Guideline(WCAG)2.0」はWebコンテンツのアクセシビリティについて規定したガイドラインです。
日本では2004年に独自の指針が制定されてから2度改定され、2016年に日本工業規格「JIS X 8341-3:2016」として、WCAG2.0の内容を含んだ対応国際規格「ISO/IEC40500:2012」の一致規格とすべく改定されました。
また、合理的配慮の提供を民間事業主に義務付ける障害者差別解消法が2021年5月に改正されました。これまで合理的な配慮提供について民間事業者には努力義務となっていましたが、今後は義務として、配慮提供が求められることとなります。これにより、日本においてWebアクセシビリティに関する訴訟が増加する可能性があります。今後は各民間事業者でもWebアクセシビリティに対する取組みがより一層活発になるのではないでしょうか。
6. ブランディングのために取組みをアピールする
アクセシビリティに配慮していない企業より、配慮している企業の方に良い印象を持つ方は多いのではないでしょうか。アクセシビリティに配慮した作りはユーザーや第三者の印象を向上することにもつながります。
ただ、これはアクセシビリティの本質から外れる危険性があるので注意が必要です。
取組みをアピールするための適切な方法は、アクセシビリティ方針や試験結果を公開することです。実際にアクセシビリティを確保したうえで、きちんと情報を公開することがアピールにつながります。
アクセシビリティを取り入れるデメリット
これまで良い点を紹介してきましたが、アクセシビリティを取り入れるデメリットもあります。
それは、コストがかかるという点です。
人的コストや工数がかかることが考えられます。
例えば以下のような状況が挙げられます。
・考慮せずに作ったサービスを後からアクセシブルにするためには、構成から見直しが必要な場合がある
・紙をスキャンしてPDFにした場合、テキスト情報が含まれていないため、修正に工数がかかる
・動画に字幕を付ける対応には相応の時間、作業量が必要
・設計/コーディングにアクセシビリティ観点を組み込むには時間がかかる可能性がある
・アクセシビリティ観点をテストするための人的コスト・工数がかかる
・自動チェックツールも存在するが、すべてを自動でチェックできるわけではない
諸外国でのアクセシビリティに関する法律
アメリカ:リハビリテーション法508条
アメリカのリハビリテーション法508条では、連邦政府がウェブを通じて提供する情報がアクセシブルでない場合、連邦政府各機関を訴えることができます。
近年ではウェブアクセシビリティ関連の訴訟が増加しており、Accessibility.comによると2020年にはなんと 2,058件 もの 訴訟が提起されたそうです。
また、2019年には著名な女性アーティストとして知られるビヨンセさんのWebサイトがアクセシブルではないということで、全盲のファンが運営会社に対し訴訟を起こしたことが話題になりました。
オーストラリア:障碍者差別禁止法
2000年のシドニーオリンピックでは、全盲のユーザーが公式サイトにアクセスできなかったとして障碍者差別禁止法に違反していると主張され、裁判となりました。
これは、アクセシビリティに関する世界初の訴訟事例として知られています。
その他、諸外国では
このほか、カナダ、ニュージーランド、韓国などでも法律による義務化が行われています。
アクセシビリティチェック
実際にアクセシビリティをチェックするために、ぜひ、株式会社freee様の「アクセシビリティー・チェックリスト一般公開用」をご覧ください。サービスや製品にそのまま使えるのはもちろん、眺めるだけでも、ものすごく勉強になりました。
アクセシビリティ向上は難しい?
中には難しいものも存在していますが、その取り組みは1かゼロかではありません。
何らかの取組みで少しでもアクセシビリティが向上すれば、それによりアクセスできるようになる人が現れるでしょう。
始めから高すぎる目標を設定するのではなく、できる範囲でできることをすることによって誰かが使いやすくなります。それを積み重ねていくことにより、将来的には大きくアクセシビリティが向上する可能性があります。
株式会社freee様の「アクセシビリティー・チェックリスト一般公開用」をご覧いただいて、もしできそうだと思われる項目があれば実際に試してみていただきたいです。
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