2024年5月7日 更新

デジタルツインとは?メリットや実現のための技術、活用事例を紹介

デジタルツインとは、現実世界から収集したデータを元に、まるで双子のように仮想空間に再現する技術のこと。コスト削減や品質の向上、作業の効率化などに役立つとして近年注目を集めています。本記事では、デジタルツインの意味や活用するメリット、関連する技術、活用事例について紹介します。

デジタルツインって何?類似技術との違いと注目される理由

デジタルツインは、現実に近い環境を再現できるだけではなく、リアルタイムの情報を反映していけるのが特徴です。デジタルツインの意味や、その他の技術との違い、注目される理由を紹介します。

デジタルツインとは

デジタルツインとは、現実にある物体や環境から集めたデータを元に、仮想空間上に全く同じ環境を再現するテクノロジーのこと。「デジタルの双子」という意味を込めデジタルツインと呼ばれています。データはIoTなどを活用してリアルタイムで収集され、AIなどによって分析・処理されます。

シミュレーションやメタバースとの違い

従来行われてきたシミュレーションとは、本物に似せた空間を現実空間に再現し、さまざま試験などを行うことです。広義ではデジタルツインもシミュレーションの形態のひとつと言えます。しかしデジタルツインは仮想空間に再現するため、リアルタイム性が高いことやトライアンドエラーを繰り返しやすいという特徴があります。

また、近年仮想空間の技術としてはメタバースも注目されていますが、メタバースは必ずしも現実世界と連動しているわけではありません。例えば、現実では存在し得ない世界観を作り出すことなどにも利用されています。

メタバースとは?意味や注目されている背景をわかりやすく解説

メタバースとは、自分の分身「アバター」が行動できる仮想空間や、それを可能にするサービスのこと。VR技術やインターネット技術の発展、感染症拡大の影響などにより、メタバースへの注目や期待が高まっています。本記事では、今注目が集まるメタバースについてわかりやすく解説。メタバースのメリットとデメリット、利用例なども紹介します。

デジタルツインが注目される理由

IoTやAIの技術進化により、実用化が急速に進んでいることがデジタルツインが注目を集める理由です。デジタルツインの技術は、製造業やエネルギー産業、災害支援などさまざまな分野で高い期待が寄せられています。

デジタルツインを導入するメリット

デジタルツインの強みは、物理空間での課題を解決できる点です。デジタルツインを活用するメリットを紹介します。

設備保全の向上と予知保全を実現する

デジタルツインが特に大きな期待を寄せられているのが、設備保全での活用です。製造ラインにデジタルツインの技術を導入すれば、製品に不良や不具合が生じた際、設置したセンサによってすばやく状況を把握し、リアルタイムでの情報収集や原因究明にあたれます。さらに不具合や故障の予兆を検知し、トラブルが発生する前にメンテナンスを行うといった予知保全の実現も可能となります。

コストを抑えながら品質向上ができる

仮想空間上で容易にトライアンドエラーを繰り返せるデジタルツインでは、ローコストで数々の検証や試作を行いながら製品の開発を進められます。検証を何度も行うことで細かな欠陥なども発見でき、結果的に品質の向上も期待できます。また、製品の出荷後の状態もデジタルツインで管理できるようにしておけば、適切なタイミングでアフターサービスが行えるようになり顧客満足度も向上できるでしょう。

リードタイムの短縮が見込める

製造業においては、デジタルツインの導入で生産性の向上が見込め、リードタイムの短縮につなげられます。製造工程にデジタルツインを導入すると、作業員の稼働状況をリアルタイムにモニタリングでき、負荷に応じて人員配置やスケジュールを見直し最適化していけます。加えて変更した場合のシミュレーションまで仮想空間上で行うことが可能です。

遠隔地からの作業支援が可能となる

デジタルツインを活用すれば、現場に出向くことなく適切な作業指示を行いやすくなります。実際に動いている製造ラインやロボットの状況などをリアルタイムで遠隔地からも確認できるようになるので、リモートでの業務も実現できるでしょう。作業内容をそのままデータとして蓄積していくと技術の伝承も容易になります。

デジタルツインを実現するために重要な技術

デジタルツインはさまざまな技術によって支えられ、より精度を高められます。デジタルツイン実現にあたり、重要となる主な技術を5つ紹介します。

IoT:インターネットを通しでデータを収集

IoT(Internet of Things)とは、電化製品などあらゆるモノをインターネットに接続してデータの送受信を可能とする技術のこと。精度の高い仮想空間を作るためにはたくさんの情報が必要です。IoTで設備や機器などのあらゆるモノのデータを収集し、仮想空間に反映させていくことがデジタルツイン実現の第一歩です。

AI:人口知能でデータを分析

AI(Artificial Intelligence)は、人工知能によって膨大なデータを効率よく分析する技術です。デジタルツインにおいては、高精度かつ迅速なデータの分析が求められます。IoTで収集したあらゆるモノのデータをAIに機械学習・深層学習(ディープラーニング)させることで、より正確なデータの分析や未来の予測ができるようになります。

人工知能(AI)とは|仕組みや歴史、今後の展望をわかりやすく解説

人工知能(AI)とは、「人工的につくられた人間のような知能」のこと。AIは技術の変遷をたどり、近年の機械学習とディープラーニングの実用化によって、目覚ましい発展と進化を続けています。本記事では、AIの仕組みや歴史を踏まえ、今後の展望や身近な活用例、現在抱えている課題について解説します。

5G:大容量のデータをリアルタイムで反映

5G(5th Generation)は第5世代移動通信システムと呼ばれる技術で、大容量のデータを超高速・低遅延で送受信することを可能にしました。5Gを活用すれば、仮想空間にリアルタイムでデータ反映していけるようになるでしょう。国内では2020年にサービス開始された新たな技術なので、今後さらなる活用事例の増加が予測されます。

CAE:仮想空間上で事前シミュレーションを実行

CAE(Computer Aided Engineering)は、製品の設計や開発にあたりコンピュータ上で問題がないかシミュレーションを行う技術です。製造業においては以前から取り入れられてきましたが、デジタルツインにおいてもシミュレーションを行うためには重要な技術となります。

AR ・VR:仮想データを現実世界にフィードバック

AR(Augmented Reality)は現実世界に仮想空間を重ね合せて視覚的に拡張する技術、VR(Virtual Reality)は仮想空間を現実世界に見せる技術です。仮想空間上で起こった不具合を視覚化することで、よりリアルに体感できるようになります。研修や作業支援などの場面で特に有用です。

デジタルツインの3つの活用事例

デジタルツインは各メーカや行政でもすでに活用の実績があります。話題となった事例を3つ紹介します。

事例1:工場を仮想空間上に再現してロスカット

製造業において、デジタルツインによって仮想空間上に工場の全体像や製品の製造工程を再現し、業務の効率化やロスカットを実現した事例です。製造ライン上に各種センサやカメラを取り付けデータを収集、組み立てからプレスまでの工程を再現し、異常の予測や早期発見につとめ重大なインシデントを未然に防ぐ取り組みを行なっています。結果的に現場環境の改善や生産性の向上にもつながっているようです。

事例2:製品のメンテナンスを最適化しコストカット

自動車や航空機などにデジタルツインを搭載、稼働状況をリアルタイムにモニタリングしメンテナンスにかかるコストを削減した事例です。雨や風などの気象データも踏まえ、AIによって状態を分析することで、問題の診断や適切な検査時期などの把握を行っています。不必要な検査を無くしながら、不具合を未然に防ぐことも可能となり、保守点検にかかるコストを大幅に削減することに成功しています。

事例3:都市をまるごとデジタル化して社会問題解決を目指す

行政においては、都市や国をまるごとデジタルツインで再現し、都市開発に役立てています。日本では国土交通省が国内各地の3D都市モデルを公開し、街歩き体験の提供や、スマートな街づくりを目指すプロジェクトの発足などが始まっています。内閣府でも災害に関するデータを蓄積し、予測や対策の強化を図る動きがあるようです。

シンガポールでは国全土を3D化していて、インフラ整備に活用しています。デジタルツインにより、工事計画の整備や人と車の流れのシミュレーションが容易となります。

デジタルツインは低リスクで課題解決が行える注目の技術

仮想空間上に現実世界を再現し、さまざまな検証や試験を行えるデジタルツインは、これまでの物理空間での課題を低リスクで解決できるとして注目されている技術です。特に製造業においては、品質向上やコスト削減など大きな期待を寄せられ、すでにいくつかの成功事例があります。今後技術の進歩によりさまざまな分野で発展していく可能性があるので、ぜひ情報をキャッチアップしておいてください。

※記載の情報は、2023年10月時点の内容です。