2022年6月2日 更新

正解が分からない世界だから、誰よりも先に飛び込んでもがく。NFTと、その先の未来について。

複製可能なデジタルの世界においても、ブロックチェーンに紐づけられたデータであれば、それが唯一無二のものであることを証明できるようになりました。NFT(非代替性トークン)と呼ばれる新たな価値が、いま多くの話題を集めています。そこで、『color is』の第1回ゲストはコインチェック株式会社 執行役員の天羽健介さんをお招きいたしました。アプリダウンロード数3年連続「国内No.1(※)」のコインチェック社は、NFTの世界でも国内のリーディングカンパニーとして新規事業を次々と立ち上げています。NFTが生み出す未来や、新規事業に取り組むうえでの心構えなどざっくばらんにお訊きしました。

NFTの本質を理解した相談が増えてきている

ーー昨年(2021年)よりNFT関連ニュースを多く見かけるようになりました。いまやビジネスパーソンにとっての大きな関心事となっています。コインチェック社では2021年3月にCoincheck NFT(β版)をローンチしており、企業や個人からの相談が数多く舞い込んでいるかと思います。その内容に変化は生まれているのでしょうか。

天羽 答えとしてはイエスです。当初は法律的なルールがなかったこともありますが、ブームに乗じてネットや動画サイトで閲覧可能なコンテンツをただNFT化して収益をあげるようなあまり本質的ではない議論も多く見受けられました。しかし現在は、次世代SNSともいえるメタバース上での取り組みなど、NFTでやる意味があること、NFTの本質を理解したうえでの相談が増えてきています。

ーーその変化はいつ頃からでしょうか。

天羽 Google Trendsの国内検索数を見ると、2021年の2月ごろから「NFT」関連の検索数が飛躍的に増えています。2021年3月にアメリカのデジタルアーティストBeepleのデジタルアートに75億円の値がつき、同じタイミングでTwitter創業者の初投稿ツイートに3億円の値がつきました。こうしたニュースの影響でNFTの認知や理解度が深まっていったのではないでしょうか。ビジネス面では、NBAのデジタルトレーディングカード『NBA Top Shot』の急成長が話題になりました。立ち上げから数か月で約240億円分購入され、現在も順調に成長を続けているようです。

ーー日本では小学校3年生の「Zombie Zoo Keeper」くんが注目を集めていましたね。どのニュースも金額があまりに大きかったこともあり、「よくわからないけど何かすごいことが起きている」と思った人は多いと思います。その一方で、NFTに関しては投機的な話題ばかりで、乗り遅れたら「損」という雰囲気もあります。

天羽 そうですね。普及するためには何かしらのムーブメントが必要なので、投機的な注目のされ方も致し方ない部分はあるかと思います。しかし、Google Trendsを見ると、2021年の夏頃には検索数が下がっていきました。当時は早くもバブルが弾けたという見方もされていましたが、水面下では大手企業や有名キャラクターの権利者、アーティストの方々などから多くの問い合わせをいただいていました。その時期は皆さんが準備をしている状態だったといえます。
その後、夏の終わり頃から国内外で新たなNFT関連のニュースが増え始め、さらにはFacebookの社名が「Meta」に変更されるなど、メタバースに注目が集まったこともあり再び検索ボリュームが上がってきました。

メタバースが造成するNFTの需要と将来性

ーーメタバースの世界が普及すると、NFTのようなデジタルデータやコンテンツを個人が所有するという感覚はわかりやすくなりますよね。

天羽 はい、私たちは暗号資産の取引サービスをやっている関係で、同じような仕組みを持つNFTに早くから注目してきました。そこでわかったことは、NFTは「手段」でしかないということです。最上位にあるのはIPと呼ばれるキャラクターであり、それを表現するひとつの手段がゲームだったりアートだったりスポーツ系だったり、そういう構造だと認識しています。

ーー現在、何か新しいムーブメントも生まれているのでしょうか。

天羽 最近ではNFT購入者に対してのコミュニティへのアクセス権、つまり会員権のようなものが「メタバース」や「ディスコード」といった新しいSNSで展開されつつあります。私たちも「The Sandbox」というメタバース空間内に、2035年の近未来都市「Oasis TOKYO」を制作するプロジェクトを開始しました。この空間をきっかけに、より多くの人にNFTやメタバースに馴染んでもいらいたいと思っています。

ーー国内に先駆け、2021年2月にマーケットプレイス「miime(ミーム」)を買収し、3月には「Coincheck NFT(β版)」をローンチされました。準備期間を考えると、かなり早い段階からNFTに注目されていたわけですが、そこには確信があったのでしょうか。

天羽 う~ん、6~7割くらいですかね。とくにこの業界は驚くほど動きが速いので、立ち止まって考えてしまうと周回遅れになってしまうんです。これまで手がけてきた新規事業はどれもまずは先に飛び込んで、もがいて、情報収集をして、6~7割の確信が得られたら突っ込むという感じです。2~3年以内にNFTが来ると見ていましたが、「miime」を買収した2週間後に大きなトレンドが来るとは思っていませんでした。あれは偶然です(笑)

ーー100%の確信がなくとも動いていくのは、最近のビジネスの潮流でもあるかと思いますが、暗号資産やブロックチェーンの近くにNFTがあると仰っていたことも、本格的に参入しようと思った理由なのでしょうか。

天羽 そうですね。暗号資産取引サービスという「点」ではなく「面」としての経済圏を考えたとき、ブロックチェーンを使ったプラットフォームは大きく分けて4つあるんです。1つはコインチェックのような暗号資産。2つめは株などのセキュリティトークン。3つめはデジタル通貨(法定通貨)。4つめがNFTです。そのなかで、可能性を感じたのがNFTと暗号資産をかけあわせたビジネスで、自社の強みが活かせることや既存事業とのシナジーがあると思われたからです。

社内のカルチャーづくりとリソース配分が新規事業成功の決め手

ーーどれも目に見えないデジタルの世界ですし、新規事業というのは概ね将来性は不透明ですよね。会社内や社外も含めた説得も困難を極めそうです。新しいことに挑戦するうえで大切なことは何だと思いますか。

天羽 まずは社内のカルチャーづくりだと思います。よほど先見性のあるカリスマ経営者でもない限り、ひとりの人間が考えていることが必ずしも正しいとは限りません。そのため、現場に近い人やアンテナの高い人の意見を「集約」させ、高速で「議論」し、本当の「勝ち筋」はどこなのか考え、「結論」を出さなくてはいけない。

そのためには、忖度など思考停止になるような障害は取り除かなくてはいけません。リスクに対して過剰に敏感になり何もしないよりも最大リスクを可視化して挑戦して失敗するほうが知見も溜まるので良し、批評家や傍観者ではなく主体者、当事者であるべき、というすべてのコミュニケーションをそう変えないといけません。

一方、新規事業は初めから儲かるものではないので、社内のリソース配分も難しいところです。経営陣や上司は、新しいイノベーションが起こりうる「仕組み」を考え、リソースをどう「配分」するかを考え、さらにはスコープや優先度を設定し判断基準とセットでうまく指示を出すことが重要。「ちょっと考えてみて」ではなく、何を「目的」として、どういう「観点」で、何を「優先順位」として考えるべきなのか。その時点における仮説や勝ち筋はどのように考えているかなどを最低限提示することもなくふわっとしたままだと、膨大な調査コストがかかり、ただ時間だけが過ぎてしまい何も生まれない可能性があります。

ーーそれらは日本企業の多くが苦手とすることだったりしますよね。天羽さん自身が心掛けていることはどんなことでしょうか。

天羽 新規事業に関してはプレイヤーの感覚で、現場の感覚を忘れずに自ら開拓していくようにしています。社内においては、マネージメント(管理職)の仕事とリーダーシップの仕事があります。マネージメント視点では、会社としてやらなければいけないことはもちろん、メンバーの自己実現の場をどう提供できるか。そのためには、メンバーのことを可能な限り理解することが起点になります。リーダーシップに必要なのは、旗を立てて方向を示す仕事なので、自分が誰よりも大局的に全体の構造を理解して、解像度を上げながら正しいと思える方向を示すようにしています。

ーー以前、暗号資産やブロックチェーンの業界は「ネット、金融、エンジニアリング、リーガル、英語などを組み合わせたビジネスの総合格闘技」というお話しをされていました。これはNFTに関しても言えることでしょうか。

天羽 基本的には同じです。インターネット黎明期に近いかもしれませんね。インターネットはよくわからないけど、とりあえず飛び込んでみた人たちが、今のインターネット業界を創りあげていきました。そういう点で、NFTも飛び込んだもの勝ちの世界だと思います。

自分の目と耳で確かめ、解像度を高められるエンジニアが生き残る

ーーそのような状況の中で、エンジニアに求められる素養はどのようなものだとお考えですか。

天羽 ブロックチェーンやNFTは、インターネット以来の革命だと言われています。今は大きなパラダイムシフトの入り口にある状態。その状況を構造的に理解したうえで、納得したのであれば、こういうことが起こりそうだというアンテナを立てて飛び込んでみる。飛び込んだあとも、自分の目と耳で何が起こっているかを納得するまで確かめて、解像度を高めていくことが重要です。その上で本当に飛び込んだほうがいいと思えたら、もう一歩踏み込んでみる。違うと思ったら引き下がる。そうやってジャッジしていくことが、不確かな時代においてはとても重要だと思います。

私自身、この技術革命の時代の波を掴みたいと考えています。NFTだけでなく、メタバースやVR、通信環境も5Gから6G、7Gへと発展していき、出来ることが増えていきます。それらテクノロジーの進化に合わせて新しいビジネスを作り、世の中が豊かになるような取り組みをしていきたいですね。

新しいものを知りたい「好奇心」がすべてのベースにある

ーー最先端テクノロジーを使った未来を描くうえでは、どういうことを大事にされているのでしょうか。

天羽 ベースにあるのは新しいものを知りたいという好奇心です。インターネットが流行り始めたとき自分はまだビジネスパーソンではなく、大人たちが新しい時代を作っているのを面白そうだなと見ていました。ですから、時代の転換点にいられるのが嬉しいんです。

その中で大事にしていることは、トレンド全体の動きがどうなっているのかを大局的に掴むこと。そのうえで自分ができることをやっていく。ひとりよがりではなく、世の中の歯車のひとつとして自分が存在している「意味」を見出しているのかもしれません。

ーーありがとうございます。最後に一つ質問をさせてください。このメディア「color is」は「さまざまなカラーに触れることで刺激を受け、自分の色を見出してもらいたい」というコンセプトがあります。そこで最後の質問、自分を「色」で表現するとしたら何色でしょうか?

天羽 ひとつは「白」。答えがない世界ですので、柔軟性を持って必要なものに染まっていくという意味です。その反面、固定概念や常識に染まらない「黒」の部分も持っている。その2色をうまく両立させるようにしています。混ぜ合わせるとグレーなのかもしれないですけど(笑)

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天羽 健介(あもう けんすけ)
コインチェック株式会社 執行役員
コインチェックテクノロジーズ株式会社 代表取締役
日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会長

大学卒業後、商社を経て2007年株式会社リクルート入社。複数の新規事業開発を経験後、2018年コインチェック株式会社入社。主に新規事業開発や暗号資産の新規取扱、業界団体などとの渉外を担当する部門を統括し暗号資産の取扱数国内No.1を牽引。2020年より執行役員として日本の暗号資産交換業者初のNFTマーケットプレイスや日本初のIEOなどの新規事業を創出。2021年日本最大級のNFTマーケットプレイス「miime」を運営するコインチェックテクノロジーズ株式会社の代表取締役に就任。日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会長。著書に『NFTの教科書』(朝日新聞出版)。
暗号資産取引サービスCoincheck:https://coincheck.com/ja/

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