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人が出会うまでの障壁を取り払いたい。『調整さん』ミクステンド北野智大が目指す世界
エンジニア
取材記事
2023年11月27日 更新
人が出会うまでの障壁を取り払いたい。『調整さん』ミクステンド北野智大が目指す世界
スケジュール調整ツールとして真っ先に選択肢に浮かぶ『調整さん』。そのシンプルなUIと使いやすさから、実際に使用したことのある方も多いのではないでしょうか。
現在『調整さん』をリリースしているのは、ミクステンド株式会社(以下、ミクステンド)。「はじまりをもっと近くに」をミッションに、利用者の生活をより豊かにすることを目指しています。『調整さん』の他に、ビジネス向けのサービスとして『TimeRex』もリリースしており、会員数は現在20万人 (23年10月時点)。
日々の生活に、ビジネスに、ミクステンドのサービスは浸透しています。
今回はそんなミクステンドの代表取締役の北野智大さんにお話を伺いました。
モノ作りがコミュニケーション手段になっていた学生時代
――リクルートで『調整さん』のインターンを始められる前から、サイトやアプリ制作等のいわゆるモノ作りを行っていたとお聞きしていますが、そのきっかけは何だったのでしょうか?
北野さん(以下、北野):
中学三年生の時、読書感想文をパソコンで書いてからですね。最初は原稿用紙に書いていたのですが、面白くないし、はかどらない。気分転換がてら、パソコン(Word)でやってみようと思ったんですね。すると、文章の書き直しは簡単だし、コピーアンドペーストは出来る。これはいいやと思ってパソコンに触り出したのが、きっかけです。ちなみに読書感想文はWordで作ったものを出したのですが、最終的には原稿用紙に手書きさせられました(笑)
――当時(20年程前)は今ほど普及していないですし、中学校からパソコンを触る機会は少なかったですよね。一方で、その年代は急速に技術が発展した時期でもあります。初代iPhoneが16年前、iPadが13年前に登場し、アプリ開発界隈は賑わいました。北野さんは如何でしたか?
北野:
アプリに限った話ではなく、高校生の頃からウェブサイトや簡単なゲーム、アプリ開発と、独学で色々やっていました。祖母の70歳の誕生日にiPadアプリを作ってあげたこともあります。iPadをノート代わりにするような簡単なアプリだったのですが、喜んでくれたのを今でも覚えています。思うに、自分の作ったものを見せて喜んでもらえるのが好きなんでしょうね。作ったウェブサイトを友達に見せては反応を楽しんでいました。
――モノ作りが、コミュニケーション手段になっていたんですね。
北野:
そうですね。ただ、自分一人でのモノ作りには行き詰まりを感じていました。いわゆるサービスと呼ばれるレベルのものを一人では作れなかったんですね。それに気づいたのが大学生の頃で、チームでのモノ作りに興味を持ち始めました。それで、当時ITの新規事業立ち上げに積極的だったリクルートの『調整さん』チームにインターンとしてジョインしてみたんです。
『調整さん』のインターンを経て広がった視点。そして、『TimeRex』の開発
――『調整さん』はURL一つで複数人のスケジュール調整をできるツールですよね。ログインせずに使えるので、コロナ前は集まりの際に頻繁に使っていた記憶があります。
北野:
ありがとうございます。今でこそ月間利用者数が500万人を超えていますが、当時の『調整さん』の規模はそれほど大きくありませんでした。それでも個人が作るサービスと比較すると、ユーザー数が圧倒的でした。自分が発案した機能や改善に対して、ユーザーがすぐにフィードバックを返してくれるんです。ポジティブな評価が殆どで、「もっと良くしたい!」という想いが生まれてきました。サービスによって社会がどうなっていくのか、人々の暮らしはどう良くなるのか。それまでサービスを出すところまでしか考えていなかった視点が、一気に広がったんです。
――インターンを経て、北野さんはミクステンド株式会社を立ち上げ、『調整さん』を買い取ります。その後、自社開発サービスとして『TimeRex』をリリースする訳ですが、0→1のチームビルティングは初めてだったのではないかと思います
。
北野:
当初は『調整さん』を横展開するようなイメージだったのですが、ビジネスの日程調整における課題は何なのか。どんな人がどんな風に困っていて、その解決策はあるのか。そこを突き詰めていく必要があると考えました。デザイナーも含めてチーム全員で頭を突き合わせて、徹底的に課題を分解し、仮説検証を繰り返していきました。分かりやすいところで言うと、ミーティングの調整です。この記事を読んでいる方も経験があるかもしれないのですが、「日程を勘違いしていた」「調整中に別件が入ってしまった」ことってありますよね。それを防ぐためにはどうすればいいのか、泥臭く考えていきました。
直感的に操作できる『TimeRex』のUI。スマートフォンにも対応。
――『TimeRex』にはカレンダーツールや、zoomなどとの連動機能もありますよね。『調整さん』にはない機能が盛り込まれていてビジネスライクになりつつも、ストレスフリーな手触りは『調整さん』に通じるところがあると思います。オンラインMTGが普及したこの時代ならではのツールという印象があります。
北野:
上手く時代にマッチしてくれたなとは思います。『TimeRex』は事業の柱を増やすという意味合いでコロナ前から開発をスタートしたのですが、まさにコロナ直前にリリースすることが出来ました。正直なところ、コロナ禍では『調整さん』のアクティブユーザーが激減したので、かなりの痛手ではありました。代わりにオンラインMTGの需要が急増した時期でもあったので、『TimeRex』が上手くカバーしてくれました。
ユーザーの生活をより良くするマインドこそが、良いサービスを生み出す
――今は様々なサービスが立ちあがっては消えていく時代です。『調整さん』はコロナ禍を乗り越え、『TimeRex』も軌道に乗っていらっしゃいますね。サービスを持続するための秘訣はあるのでしょうか?
北野:
シンプルであること。アーリーアダプターに合わせて設計しないこと、ですね。前者でいうと、我々は直感的に理解しやすいUI・UXを心がけています。社内で言っているのは、文字の説明を見なくても、説明を覚えなくても、簡単に操作できるUIを突き詰めていこうと。このシンプルなモノ作りは祖母にアプリを作った時の経験が生きているかもしれません。あの時も、直感的に操作してもらえるように工夫していたんです。
――アーリーアダプターに合わせて設計しない意図についてお聞かせいただけますか。新しいサービスはアーリーアダプターから広まっていく印象があるのですが。
北野:
そういった面はあります。ですが、多くの人にも使ってもらいたい場合、ITリテラシーの高い方に合わせた設計では、どこかで行き詰まるのではないかと思います。UI・UXの話とも通じるのですが、やはりシンプルでなければならない。そのためには単純に必要な機能を追加していくような設計思想ではだめで、時にはそぎ落とし、時には統合するといったことを恐れずにやる必要があると考えています。
――エンジニアとしてキャリアをスタートさせた北野さんならではの視点ですね。
北野:
技術的に極めることと、アウトプットをシンプルにすることは両立できると思っています。事実、我々のサービスも決して機能が少ない訳ではありません。その分、UIを極限までにシンプルにしてバランスを取っています。長く使っていただく以上、ストレスをかけないことが大事ですからね。シンプルなUIのストックを自分の中に溜めておくために、普段から色々なサービスを使うようにしています。最終的に大事になってくるのは、ユーザーの生活を良くするためのアウトプットを行うのだという視点を持つこと。エンジニアだからといって、技術だけでいいとか、決まったものを作るだけではなくて、作っていく過程で違和感を抱いたのなら自ら提案する。この意識の有無で、仕事の内容が大きく変わってくると思います。
――参考になります。その他にエンジニアが持つべきマインドについて、どうお考えでしょうか。
北野:
自分の中に軸を持ち、そこに集中して努力していく。これに尽きます。チャンスはいつ来るか分かりません。リクルートでインターンをしていた時、『調整さん』を自分が買い取るとは夢にも思っていませんでした。ですが、初めてパソコンに触れた中学生の頃から、この道で生きていくのだと決意していて、そのためにひたすら手を動かしてきました。努力を継続したからといって必ずしも報われる訳ではありませんが、チャンスを掴むためには大事なことです。私の場合は会社立ち上げでしたが、例えばエンジニアの方が自分でサービス作ろうと一念発起したとします。その時に自分の能力が低かったら作れないですし、そもそもどういう技術が必要かも理解できないかもしれない。日々学び、日々積み重ねていく。それが大事なマインドです。
不可逆的な技術進歩であるAIがもたらす時代の変化
――ありがとうございます。エンジニアに限らず参考になる話ですね。ちなみに今注目しているITトレンドはありますか?
北野:
AIです。インターネットがそうであったように、AIは不可逆的な技術です。我々のサービスでは、利用者の予定の中から最適な日程候補を送ることが出来るのですが、そこは今ロジックで組んでいます。ここにAIが入ってくれば、「ユーザーが選びそうな曜日・時間を提案してくる」「最適なMTGの組み方の提案」など、タイムマネジメントを効率化することが出来るのではないかと考えています。このように、技術的な面においての新しいインフラになるのではないでしょうか。
――AIによって仕事が奪われるという声も大きいのですが、どうお考えですか?
北野:
大学まで勉強して、就職すれば、あとは仕事だけする。そういう時代ではなくなりつつあると思うんです。アンテナを張って、色々なことをキャッチアップし、学ぶ。そうしていくことで、AIが浸透していく中でなくなる仕事があったとしても、リスキリング出来るんじゃないでしょうか。
――リスキリングの話が出たのでお聞きしたいのですが、異業種からエンジニアに転職する方も多くいらっしゃいます。エンジニア業界にスムーズに溶け込むためにはどうしたらいいでしょうか。
クステンドはリモートワークが基本だが、オフィスに集まって仕事をすることもある。写真左は、CTOのRajesh Jayan氏。
北野:
エンジニアはプログラミング言語や開発環境の構築方法など、学ぶことが多い世界です。高収入であるとか、フルリモートができるとか、そうした気持ちでエンジニアを目指すのは厳しいと思います。モチベーションが続かないんですよね。先ほども話したように、ユーザーが喜ぶ顔を想像できるのかが大事です。そこに興味がある人であれば、今プログラミング言語をまったく知らなくても適性があると思っています。
「はじまりをもっと近くに」ミクステンドが目指す世界
――北野さんのお話を聞いていると、軸足を持つことの重要性が理解できます。ミクステンドはこれまで『調整さん』『TimeRex』と、スケジュール調整のサポートに特化してきました。人々の役に立つという軸足はありながらも、今後はどのように発展していくのでしょうか。
北野:
日程調整の先に何があるかというと、人と人との出会いです。ビジネスにしろプライベートにしろ、何かが生まれるのは日程調整の後です。これまで日程調整にかかっていた時間を大幅に削減することが出来れば、より多くの人と出会えます。出会いが増えれば、社会はより豊かになる。つまり、社会全体の底上げに繋がります。『調整さん』も『TimeRex』も基本機能は無料から使えるようにしているのですが、我々のツールを無料で使っていただくことで、生活がより良くなることを体感していただきたい。そんな想いが込められています。その想いは「はじまりをもっと近くに」というミッションとして、ミクステンド全社員と共有しています。そして今後は、その出会いの周辺領域へ乗り出すことも検討しています。
――出会ってからの行動をサポートする、ということでしょうか?
北野:
それも一つの例ですね。例えば『調整さん』で旅行の日程は調整できても、その後の行動は細かく決められません。スケジュール調整と、その後の行動の中身が今は別々に設定されている状態です。それって少し面倒だなと思いませんか? その解決方法が『調整さん』や『TimeRex』の機能拡張で事足りないのであれば、新しいプロジェクトを立ち上げる。そんな風にスケジュール調整とその先の出会いの周辺領域をサポートしていくことで、会社を大きくしていければいいなと考えていますね。
『調整さん』の操作画面。スケジュール調整の先にある世界をミクステンドは目指していく。
――ありがとうございます。スケジュール調整の先には出会いがあり、出会いの先には体験がある。そのすべての「はじまり」をミクステンドがサポートする未来を楽しみにしています。最後に、ご自身を「色」で表現するとしたら何色になるのか。お聞かせいただけますでしょうか?
北野:
赤、ですね。中学生の頃からいつか自分でサービスを作って会社を興したい気持ちがありました。ひたすら経験を積み重ねるしかなかったので苦しい時期もありましたが、成し遂げられたのは熱量があってこそです。情熱の赤色ということですね。今のコーポレートカラーも赤色で、内に秘めた情熱を表しています。なんてことを言いながら、今日の服は赤色じゃなかったりしますが(笑)
北野 智大
1990年生まれ。株式会社リクルートで調整さん事業の事業開発を牽引し、260%成長を実現。2018年にミクステンドを創業し、調整さん事業を譲受。2020年1月、調整さんで培ったノウハウをもとに、ビジネス版日程調整自動化SaaS「TimeRex」をリリースし、登録者数は20万人を突破(23年10月時点)。必要なことに集中できる生産的な時間を生み出すべく、日程調整を軸とした社会の変革を目指す。
https://mixtend.com/
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