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アートを、Jポップのように身近に。SNSから生まれるデジタルアートの可能性。
NFT
アート
取材記事
2022年8月4日 更新
アートを、Jポップのように身近に。SNSから生まれるデジタルアートの可能性。
『アート』や『美術』という言葉は少し前までは、敷居が高い印象がありました。しかし、インターネットやSNSの発展、そしてNFTの登場で、いつの間にかアートは身近なものになりつつあります。今回お話をお伺いしたのは、ラフロワ合同会社の野呂翔悟さん。動画制作のスタートアップでキャリアを磨き、2017年の独立後にラフロア合同会社を設立した野呂さんは「アートをポップなものにしたい」という想いを原動力に、独自のアプリ開発や、デジタルアートをオフラインで展開するギャラリーなど、型にとらわれないやり方でアートに新しい光を当てています。
SNS発信のアートは民主主義
――ラフロワ合同会社は、デジタルアーティストをキュレーションするSNSアカウント「KEIVI」、デジタルアートのマーケットプレイスである「Captors」、デジタルアート専門のギャラリー「DiGARO」など多角的に事業を展開されています。フットワークが軽く、クリエイティブな印象を受けるのですが、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?
野呂
実は営業畑出身なんです。しかも初めて入社した京セラでは、電子部品の営業をしていて、ネットやSNS業界のことはさっぱり分からず(笑)。ただ、ゆくゆくは自分で事業を起こそうとは考えていて、動きの速いインターネット業界はウォッチしていました。そんな中、Youtubeで広告収入の制度が始まり、Facebookでは料理動画が流行り始め、これからはネット動画が来るだろうと。そうして、動画制作のスタートアップ企業へ転職したのが2013年頃でしたね。ここでも引き続き営業として働いていたのですが、SNSと動画に関するスキルを高めていきました。僕が恵まれていたなと思うのは、周りに教えてくれる人たちが沢山いたこと。制作部の皆さんに怒られながらも、基礎から教えてもらえたのは良い思い出です。
――2013年はWEB動画広告元年と言われている時期でしたね。その後の独立までの経緯をお聞かせください。
野呂
様々な動画系スタートアップが現れたのが2016年前後で、そのタイミングで、Candeeというスタートアップの立ち上げに参画しました。Candeeでは番組制作に携わるようになり、著名人との対談番組や芸人さんを起用した番組など、テレビ番組に近いものをライブや動画で配信していました。とても居心地の良い会社だったのですが、自分が事業としてやっていきたいことが見つかったタイミングで独立させていただきました。
――それがアートだったわけですね。
野呂
その中でも僕が注目したのは、イラストレーターの方たちです。少し前までは、可愛くてポップなイラストはアートとは見なされていなかったと思うんですね。いわゆるメインストリームではなく、サブカルチャー的なポジションというか。それが一般化していったのは、インターネットの発展が裏にあると思います。自分で自由に情報発信が出来るし、好きなものも見つけやすい。気づけば、イラストレーター系の作家の方たちの人気がSNSで高まり、アートカルチャー化していました。
――一般的にデジタル×アートというと、チームラボやライゾマティクスがやっている取り組みを思い浮かべがちですが、これまではイラストと認知されていた作品がアートとして取り扱われている現状は意外でした。
野呂
アートといえば敷居が高く、閉鎖的なイメージがありましたよね。美大出身でもギャラリーに所属している訳でもないアーティストが、SNS発信でトレンドを作り出し、従来のアート市場とは違う流れができています。改めて、SNS発信のアートは民主的でいいなと思ったと同時に、アートはIT化が遅れている業界だなと気付きました。そこで、Instagramをメインとした「軽美術部」=KEIVIというキュレーションメディアを立ち上げました。
KEIVI-軽美術部-SNSアカウント。
野呂
KEIVIでは「これは!」と思ったアーティストさんにコンタクトして紹介させてもらっています。アーティストさんを広く知ってもらうのと合わせて、デジタルアート業界の活性化にも貢献したいと思い、毎月イラストコンテストも開催しています。優秀作品はオフラインのギャラリーで展示することもありますよ。現在は3,000人くらいの作家さんたちと繋がっていて、企業さんとお繋ぎするなんてこともやっています。
美術におけるJ-POPを生み出したい
――デジタルアート=デジタル上で完結するものという印象を受けますが、DiGAROのようなオフラインでの施策も行っていらっしゃいます。
野呂
SNSで鑑賞されることの多いデジタルアートですが、SNSはあくまでもきっかけだと思うんですね。リアルなものとしてアウトプットされたアートは、スマートフォンやパソコン上で触れたものとは、また違った見え方になります。気軽にデジタルアートに触れて欲しい、楽しんで欲しい。そうした想いからデジタルの画廊=DiGAROを立ち上げました。気に入ったアートをもっと身近に感じてもらうために、Tシャツやスマホケースといったグッズをオンライン上で購入する仕組みも用意しています。
ギャラリー:DiGARO(写真は旧DiGARO。現在は東急プラザ表参道原宿4階に移転)
DiGARO店舗内ではARアートギャラリーを体験することも出来る。
――DiGAROでは、アートを所有することも出来るとお伺いしました。アートの所有というキーワードで思い浮かぶのが、NFTです。ここ最近アート界隈で盛り上がっているNFTについては、どのように考えていらっしゃいますか?
野呂
ブロックチェーンには以前から興味があって、ビットコインブームがあった2017年くらいから注目しており、設立当初から参入を考えていました。NFTは昨年にブレイクしましたよね。現状のNFTは絵が好きな人ももちろんいるのですが、やはり投機的な雰囲気が強いですね。まだ玉石混交な状態なので、正しい評価がなされるのは、もう少し時間が必要なのではないかと思っています。ですから、NFTに参入すべきかどうか、タイミングを見計らいつつ、僕としては優良なコミュニティを作ることが最優先と考えています。
――NFTはデジタルアートの象徴だと思っていたので、少し意外でした。
野呂
NFTは間違いなく大きなトピックだと思いますし、大きな可能性を感じています。ただ、あくまで手段です。僕は本当に絵が好きな人が純粋にデジタルアートを楽しめるようにしたいんです。そこで立ち上げたのが「Captors」というアプリです。InstagramとUIは似ているのですが、投稿されるのはすべてイラスト。アプリ内でコンテスト開催機能に加えて、アーティストへの投げ銭機能や作品購入機能も実装しています。以前から僕が目指しているのは、美術におけるJ-POPを生み出すことなんです。美術手帖に掲載されたからアート、有名なギャラリーで取り扱われたから立派な作品である。従来はそういう前提があったと思います。自分がやりたいことは、そうした権威主義的なものへのカウンターです。むしろ、アートとして認められるかそうでないか、その境目こそが面白い。バンクシーがいつからか現代アートの象徴になったように。もっとゆるい感じで、アートに接してもらう。そのために出来ることを、一つずつやっている状態ですね
。
Captorsアプリ
純度が高い関係性の中で仕事をする
――次々と事業を広げられていますね。事業を広げるうえで大切なのが理解者とパートナーだと思うのですが、野呂さんはそうした仕事上での人のつながりをどのように考えていますか?
野呂
営業出身でこんなことを言うのは恥ずかしいんですが、自分自身は人づき合いが苦手で(笑)。昔から信用できる人としか仕事をしないんです。現在一緒に動いてくれている3名のスタッフも、彼らが仕事を辞めるタイミングで声をかけてジョインしてもらっています。Captorsのアプリ制作を担当してもらったのも、昔からの付き合いのある先輩。こんな風に人数は限られていますが、その分純度が高い関係を築けているかと思います。誰かいい人がいないか常にアンテナを張っていますし、自分がやりたいことを普段から口に出すようにしています。そうしたことが、巡り合わせを引き寄せてくれているのかもしれませんね。
――ありがとうございます。このメディア「color is」は「さまざまなカラーに触れることで刺激を受け、自分の色を見出してもらいたい」というコンセプトがあります。自分を「色」で表現するとしたら何色でしょうか?最後にお聞かせください。
野呂
やっぱりピンクですかね(笑)。明るくてかわいい、ポップな色ですし、自分もそうなりたい、そういう存在でありたいということもあります。
PROFILE
野呂将悟(のろ しょうご)
2008年、京セラに入社。2013年にWEB動画制作会社のバーシャルに転職。2017年独立し、アートをJ-POPのように気軽に接してもらうためのラフロワを設立。
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