2022年6月28日 更新

画面の向こう側、テクノロジーの先には人間がいる

インフルエンサーマーケティング業界で頭角を現す株式会社BitStar(以下、BitStar)。マンションの1室からスタートし、現在は渋谷のビルにオフィスを構えるBitStarは業界トップクラスの成長を実現したと言ってもいいかもしれません。同社のテクノロジー分野を支えるCTOの山下氏に、この業界とデータ活用の重要性についてお話を伺いました。

プラットフォームを選ぶのはクリエイター

――ここ数年で動画クリエイター(インフルエンサー)が幅広く認知され、広告業界でも大きな存在感を放つようになりました。SNSプラットフォームの変化と今後について、どのように捉えていますか?

山下 2010年代初頭までの動画プラットフォームと言えばニコニコ動画の人気が高く、YouTubeはまだそれほどという印象でした。でも、無料で視聴できることもあって、次第にYouTubeへと人気がシフトしていったと思います。Instagramも同様で、日本でサービスをスタートした当初は、静止画と写真だけなのでそれほど成長しないだろうと多くの人が予想していました。しかし、2017年くらいにインスタ映えといった言葉が出てきて、ファッションやコスメに強いプラットフォームとして若者に受け入れられ、現在はすっかり定着しています。周囲から「クリエイターが集まるプラットフォームを自分たちで作ればいいのでは?」と言われることもあるのですが、私たちはコンテンツプラットフォームの制作には手を出していません。というのも、コンテンツを制作するのはあくまで次世代のクリエイターの方々であって、時代によって配信方法は次々と変わっていくからです。

インフルエンサーマーケティングにはまだ伸び代がある

――クリエイターを重視しているというわけですね。確かに、TVCMに起用される、自分でブランドを立ち上げるなど、プラットフォームという枠組みを超えて活躍される方たちもいらっしゃいます。

山下 一つの枠組みの中でだけ活動する時代ではないですよね。入れ替わりが激しい業界ですから、どのプラットフォームが今熱いのか、次に仕掛けるべき手は何なのか、ということは常にウォッチしています。また、インフルエンサーマーケティングは水物ビジネスのように見られる方もいるかもしれませんが、まだ伸び代はあると感じています。実際に、私たちは年間で1,500名以上のクリエイター(インフルエンサー)と取引していますが、彼らのYouTube視聴率は年間20〜30%で成長し続けています。さらに、TikTokやYouTubeショートといった新しい表現方法も出てきて、どんどん新しいクリエイターが出てきている。それはつまり、受け手側が求めているものも変わってきているということでもあります。そうした変化の兆しを掴むのは難しいのですが、データと自分の目を駆使していくことが必要だと思いますね。

画面の向こう側、テクノロジーの先には人間がいる

――デジタルだけではなく、アナログの感覚も大事にするということでしょうか。確か、BitStarの始まりはクリエイターと企業のマッチングサービスが始まりだったかと思います。デジタルに強い印象があったので、少し意外です。

山下 デジタルとアナログの組み合わせが必要なんです。YouTubeを例に挙げると、チャンネル登録者が1,000人を超えた時点でAIが捕捉するようになっています。この中からクリエイターが伸びるタイミングを見つけ出す。ここまでが、システムによる自動抽出。そこから先の、クリエイターとの関係構築は人間の役割になります。スカウト担当はクリエイターが発信するチャンネルの特性をしっかり捉え、情熱を持って接し、お互いが理解し合える関係性を築き上げてはじめて一緒に仕事ができる。技術がどれだけ進歩しても、結局は画面の向こうには人間がいるんです。彼らのニーズに常に応えられる会社でなければならないと意識しています。

――クリエイターを軸としながら、テクノロジーを使って人と人を繋げることが御社の強みなのですね。データの活用方法について、もう少しお話いただけますか?

山下 私たちが取り扱っているYouTubeチャンネルのデータだけでも25万件以上、YouTubeの動画データという括りでいえば4,700万件以上にも及びます。さすがに人間では処理できない膨大なデータ量ですから、機械学習や感情分析、AIといったテクノロジーを活用しています。YouTube、Twitter、Instagram、TikTokといったマルチプラットフォームでデータを収集し、過去のタイアップ広告案件や実績などを参照しながら、クリエイターと企業を結び付けています。 “IPR(インフルエンサーパワーランキング)”というサービスで、有料と無料で提供しているデータベースなのですが、いわばタレント名鑑のインフルエンサー版ですね。膨大なデータを“数値化”し、“見える化”することによって、適切なインフルエンサー=クリエイターを見つけられるようになっています。

――複数のプラットフォームのデータを網羅できるからこそ、冒頭に「コンテンツプラットフォームは作らない」と言われたのでしょうか。

山下 そうですね。世代ごとに求められるコンテンツが違ってきますし、選ばれるプラットフォームも違ってきます。Netflixのようにお金を払って質の高いエンタテインメントを楽しむことが、ひとつの方向性として確立されてきた一方で、課金への躊躇がある若年層もいます。そうした層に支持され続けているのが、クリエイターによる無料のコンテンツです。特にZ世代と呼ばれる層には短尺の動画を好む傾向があります。テクノロジーの進化やインフラが整備されたことで、選択肢が無数に増えているんです。動画というプラットフォームがここ数年で確立されていきましたが、今後どうなるかは予想だにし     ません。次世代が選択するプラットフォームとそこで求められるコンテンツの変化を、いち早く察知する能力が求められているのだと思います。

常にアンテナを張り、キャッチアップし続けること

――color isはエンジニアを目指す読者も見ています。今後のエンジニアにとって大切なマインドを教えていただけますか?

山下  ものごとを習得するのには、「1,000時間」「3,000時間」「1万時間」などの法則があると言われていて、たとえば英語を喋れるようになるには、何千時間も英語を聞き取らないと上達しないと言われています。これはエンジニアにとっても同じことが言えると思いますが、単純に時間を費やせばよいということではなく、インプットの量と質が重要になると思います。古くなった情報や不正確な情報を取り除いて、自分なりのフィルターを通してデータを蓄積していくということです。そのためにも常にアンテナを張って、新しいテクノロジーを     キャッチアップし続けないといけない。月並みな言葉になってしまうのですが、やはりいつまでたっても勉強し続けることが大切だと思います。

――ありがとうございます。このメディア「color is」は「さまざまなカラーに触れることで刺激を受け、自分の色を見出してもらいたい」というコンセプトがあります。自分を「色」で表現するとしたら何色でしょうか?最後にお聞かせください。

山下 1つの色に限定するのが難しくて(笑)、エンジニアとしての自分を色で表すなら“ブラック&ホワイト”ですね。デジタルの世界は0と1でできていて、グレーが無いんです。あえて1つの色に限定するとすれば“白”です。技術者として物事を俯瞰するとき、いったん心の中をまっさらな状態にしなければならないからです。ひとつのテクノロジーを使うだけが重要なのではなく、何か別の物や産業と掛け合わせたときにこそテクノロジーが活きる。そういう意味でも、新しいテクノロジーを何かに掛け合わせるとき、固定概念や既存の手法をいったん取り払って、真っ白な状態にすることが大切だと思うからです。

PROFILE
BitStar CTO
山下雄太

慶應義塾大学理工学部電子工学科に進学。在学中から、楽天、ナノ・メディア、マクロミルの各社において、インターンながら各社の大規模開発案件をリード。大学卒業後、グリーに入社。2013年3月からラクスルにCTOとしてジョイン、16年よりBitStarに入社。21年10月から同社の執行役員CTOとして開発領域全般に携わる。

   
https://corp.bitstar.tokyo/
   
https://ipr.bitstar.tokyo/

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