勘定系は変えられない、それでも自己査定は変えられる。―地方銀行の事例ストーリー
勘定系システムの更改が容易ではない状況下で、いかにして業務の高度化を実現するか。
本コラムでは、膨大なExcel作業や属人化が課題となっていた地方銀行の「自己査定」業務に焦点を当て、既存システムには手を加えず、データ連携基盤の構築によってプロセスを再設計した事例を紹介します。現場の負担軽減とデータガバナンスの両立を実現し、本来あるべき戦略的な議論を可能にした、現実的なデータ活用の手法を紐解いていきます。
「勘定系は、すぐには変えられません」
これは、当社が地方銀行のお客様から最も多く伺う言葉です。 安定稼働している共同センター型の勘定系。大きな障害もなく、日常業務は問題なく回っている。更改には多額の投資と他行調整が必要で、次期更改は数年後。現実的に、今すぐ手を入れられる領域ではない——。
地方銀行B行(以下、B行)も、まさに同じ状況にありました。 総資産約2兆円、営業店約30店舗。地域に根差した堅実経営を続ける同行の勘定系は安定しており、預金・為替・融資の基幹業務は滞りなく稼働していました。 しかし、半期ごとの「自己査定」だけは様相が異なっていました。
半期ごとに立ち上がる自己査定プロジェクト
最初にご相談いただいたのは、同行の情報システム部主任のY様でした。 「自己査定の時期になると、銀行全体が止まるのです」 その言葉は決して大げさではありませんでした。
営業店では、融資担当者が決算書情報、担保評価、取引状況などを複数のExcel様式へ転記し、本部へ提出します。提出後は融資管理部から修正依頼が入り、再提出。最新版はどれか、どの数値が修正されたのか、メールと共有フォルダを行き来する確認作業が続きます。
本部の融資管理部では、勘定系や格付システムから出力されたCSVをExcelで統合し、独自マクロで加工していました。ファイル数は百を超え、ロジックの一部は過去の担当者が作成したまま引き継がれています。差分確認は目視、修正履歴はメールに分散。担当者しか分からない処理も存在していました。
さらにリスク統括部では、経営会議資料を作成する段階になっても数値が確定せず、会議直前まで調整が続くこともありました。速報値と確定値が異なるケースもあり、議論は本来あるべき「リスク戦略」ではなく、「数字の整合性確認」に時間が費やされていました。 Y様は振り返ります。
「RPAも導入しました。部分的な自動化も進めています。でも、全体は楽になっていない。むしろ調整が増えている感覚すらあります」
自己査定は、業務というよりも「半期イベント型の臨時プロジェクト」になっていたのです。
勘定系更改は現実的な選択肢ではなかった
では、勘定系を刷新すれば解決するのか。 同行の勘定系は共同センター型で、単独改修は困難です。更改には数十億規模の投資が必要となり、他行との調整も不可避。次期更改は数年後に予定されており、前倒しは現実的ではありませんでした。 しかし、自己査定は半年後にもやってきます。
「今の環境で変える方法はないのか」
これが、B行の問いでした。
課題の本質は「データ連携」ではなく「プロセス分断」
私たちが最初に実施したのは、システム刷新の提案ではありませんでした。 自己査定に関わるデータの流れと業務フローを可視化することから始めました。 すると見えてきたのは、システムの老朽化ではなく、プロセスの分断でした。 データ自体は存在しています。しかし、
- 取得タイミングが部門ごとに異なる
- 加工ロジックがExcelに散在している
- 部門間が直列構造でボトルネックが発生する
- 変更履歴が追えない
つまり問題は、「データがない」ことではなく、「データが統合されず、流れが設計されていない」ことでした。自己査定は「作業の集合体」になっており、全体を俯瞰したプロセス設計が存在していなかったのです。
▼データ連携についてもっと詳しく知りたい
⇒ データ連携 / データ連携基盤|用語集
データ連携基盤による業務プロセスの最適化とガバナンス確保
そこで私たちは、勘定系には手を入れず、分散したシステムとデータをつなぎ直す「データ連携基盤」によるプロセス再設計をご提案しました。
自己査定に関わるデータは機密性が高く、本来であれば勘定系や融資支援システムの中で完結させるのが理想です。しかし、既存システムの改修には多額のコストと時間がかかります。一方で、RPAやExcelマクロによる局所的な自動化の継ぎ接ぎでは、ガバナンスが効かずブラックボックス化が避けられません。
私たちが導き出した解は、各システムから出力されるデータをセキュアな環境下で自動収集・統合する専用のデータ連携基盤の構築でした。勘定系、格付システム、担保管理システムなどをハブ型で接続し、必要なデータを標準化します。これにより、既存システムには一切手を加えることなく、「短期間での構築」と「監査に耐えうるデータガバナンス」を両立させました。
Excelに散在していた加工ロジックは基盤上に移行され、属人的な手作業は標準プロセスへと置き換えられました。誰が、いつ、どの数値を変更したのかは履歴として可視化され、未提出や差分は自動検知されて関係部門へ即時通知されます。 自己査定は、半期イベントから、常時更新されるプロセスへと変わりました。
数字で見る成果、そして経営への波及効果
導入後、B行では明確な成果が確認されています。
- 工数の大幅削減:営業店(約30店舗)と本部を合わせて半期で延べ約4,000時間かかっていた自己査定関連作業が、約2,400時間へと40%(約1,600時間)削減。
- リードタイム短縮:データ確定までの期間が4週間から1.5週間へ。
- 品質向上:整合性エラーは大幅に減少し、監査対応時間は半減。
しかし、最も大きな変化は数字ではありません。
「戦略の議論ができるようになった」
経営層のこの言葉が象徴的でした。 数値確定に追われる状態から脱却し、ポートフォリオの質やリスクテイク方針について議論する時間が確保できるようになったのです。精度の高い格付け情報をもとに、より機動的な経営判断が可能になりました。 自己査定の改善は、単なる業務効率化ではなく、経営基盤の高度化につながっていきました。
自己査定から始める業務変革
自己査定業務に、次のような課題はありませんか。
- 自己査定のたびに現場が疲弊している
- Excelファイルが増え続けている
- 属人マクロがブラックボックス化している
- 速報値と確定値に差が出る
- 勘定系は当面更改できない
これらは、システムの限界ではなく、プロセス設計の課題かもしれません。 勘定系を変えなくても、業務は変えられます。 自己査定は、その第一歩になり得ます。
B行の取り組みは、決して特別な事例ではありません。 同様の構造課題を抱える地方銀行様は少なくないはずです。 まずは、自行の自己査定プロセスを客観的に可視化することから始めてみませんか。 業務フローの見直しは、次の半期を変える可能性を持っています。


