歴史と素地はあるのに進まない、金融業界のデータ活用 事例とノウハウの横展開で業界全体の底上げを目指す
金融機関は、顧客の入出金情報をはじめ、他業界にはない重要なデータを大量に保有している。しかし、そうしたデータの活用はあまり進んでいないのが実情だ。その背景には、金融機関同士の横のつながりが弱く、ノウハウを共有できていないという、業界特有の事情があるといわれている。
そうした中、金融業界全体のデータ活用水準の引き上げを目的に、金融機関やスタートアップ等の企業が集まって設立されたのが、一般社団法人金融データ活用推進協会(FDUA)だ。2022年11月、セゾン情報システムズが同協会へ加盟したことを機に、同協会代表理事の岡田拓郎氏、理事の佐藤市雄氏、企画出版委員会副委員長の小川幹雄氏に、設立の経緯や活動の内容、金融業界の抱える課題と展望についてうかがった。
▼プロフィール(写真左から)
SBIホールディングス株式会社 社長室ビッグデータ担当 次長 佐藤市雄氏
デジタル庁 デジタル社会共通機能グループ 統括官付 一般社団法人金融データ活用推進協会 代表理事 岡田拓郎氏
DataRobot Japan株式会社 データサイエンス ディレクター 小川幹雄氏
※役職や所属は取材時のものです。
膨大かつ正確なデータを保有し、活用の歴史と素地はどこよりもある金融業界
まずはFDUAの設立の経緯と理念についてお教えください。
- 小川
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もともとは、私の会社が提供しているAI Cloud プラットフォーム DataRobotをいろいろな金融機関のお客様にご利用いただく中で、金融ユーザー会のようなものが発足して、ここにいる佐藤さん、岡田さんたちとの企業の垣根を越えた関係性ができました。ただ、そのメンバーだけだとツール紹介のみの関係になってしまうということで、岡田さんが2020年12月に「金融事業×人工知能コミュニティ」というFDUAの前身となる組織を立ち上げました。その趣旨は、金融機関やベンダーから有志が集まって、最先端のデータ活用や組織、人材育成などについて議論する、というものでした。
- 佐藤
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それで2年ほど、コロナ禍もあって活動の大半をリモートで行っていたのですが、これからは対面で本格的に活動できそうだという状況になったとき、このまま東京にいる最先端のデータ活用に通じたメンバーだけで活動を続けていいのだろうか、と。もっといろいろな方に参加していただいて事例やノウハウを共有し、業界全体のデータ活用を底上げしなければ、産業自体が衰退してしまう、と思ったのです。
ちょうどそのタイミングで、三菱UFJ信託銀行のデジタル部門の推進役だった岡田さんが、デジタル庁に民間専門人材として勤務するようになりました。それもひとつのきっかけとなって、より幅広い取り組みにしていこうということで、2022年6月にFDUAの設立に至りました。会員数は31からスタートし、今は80を超える金融機関やスタートアップなどの団体に成長しています。
データサイエンス ディレクター 小川幹雄氏
FDUAの現在の活動状況についてご解説ください。
- 小川
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いくつかの委員会を中心に活動しています。佐藤さんが委員長、私が副委員長を務めている企画出版委員会では、さまざまな金融機関の方と一緒に、データ活用のノウハウを形式知化する目的で、成功事例を本にまとめて出版を予定しています。
標準化委員会では、各金融機関におけるデータ活用の進捗等を客観的に判断できるチェックシートを作成しています。やはり金融機関の皆様は、自社のデータ活用の状況に不安を抱いています。自分たちのデータ活用はどの程度進んでいるのか、どこに弱点があるのか。それを自ら判断できるようにするために、お互いの状況を正直に打ち明けて協議し、金融業界の実情に沿った評価軸を定めています。
また、DX人材の育成や発掘に取り組んでいるのがデータコンペ委員会です。優秀なDX人材に金融業界へ入ってもらうためには、金融機関のデータ活用はおもしろい、と感じてもらわなければなりません。そこで、社会人だけでなく学生も対象として、コンペティションという形で金融データの活用を体験してもらうプログラムを計画しています。 - 佐藤
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ただ、それだけだと会員の皆様にとってはなかなか参加しにくいので、定期的にイベント等を開催しています。隔週で行っている勉強会では、金融機関やパートナー企業の方に、皆様にとってデータ活用の入り口となるような、比較的平易な知見や事例を共有していただいています。
一方、業界内の横のつながりを広げる目的で開催しているミートアップでは、業界の中心的存在である都銀だけでなく、比較的新しい業種であるリース会社やカード会社の方だけで集まっていただいたりもしています。 - 小川
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リース会社やカード会社には、「業界の大先輩である銀行の方の前では、『うちではこんなデータ活用を……』などと偉そうに話せません」という方が多いですよね。でも、ビジネスの特性上、データとの相性がよく、競合が多いというのもあって、実はデータ活用に関しては非常に進んでいますね。
- 佐藤
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そうですね。同業種だけで集まるとそういうおもしろい話がどんどん出てきますし、同じ金融業界といっても結構幅があって、データ活用のテーマに違いがあるのが見えてきます。業界の中心だけにフォーカスしているとそういうことがわからないので、いろいろな角度からミートアップを企画するようにしています。
社長室ビッグデータ担当 次長 佐藤市雄氏
金融業界にはどのようなデータが存在し、現状どのように活用されているのですか?
- 小川
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持っているのは主に入出金のデータと顧客の属性情報です。それらの最大の特性は、“嘘のつけないデータ”であることです。たとえば給与に関して、ほかの業界のアンケートデータなどだと、適当な数字を書くとか、端数を切り捨てるとかいったことがいくらでもできてしまいます。しかし、金融機関の場合、誰の口座にいつ、いくら入金された、というデータは事実として絶対に書き換えられません。ゆえに、今、誰が金融に関して困っているのか、どんなサービスを求めているのかといったことを、分析によって非常にはっきりと出せるわけです。
一方、欠点は、データとしての粒度が粗いことです。たとえばクレジットカードのデータの場合、買ったお店と金額ぐらいしかわからないので、単体での活用は難しく、他のデータと組み合わせる必要があります。その点、佐藤さんのSBIホールディングスのように、幅広くビジネスを展開している企業グループでは、入出金のデータだけでなく、他の業種で取得した家族構成や職業などのデータと組み合わせて分析することで、保険に入ったり家を買ったりしそうなタイミングを把握して、最適な提案をすることができます。 - 佐藤
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金融というのは、そもそもすべてがデータの世界です。当然、正確性の高いデータを長年にわたって蓄積していて、今日において最先端のデータ活用とされているようなことを、すでにこれまでの歴史でやってきたわけです。ところがおもしろいことに、金融機関の方と話をすると、必ずといっていいほど「うちにはデータがないし、活用法もわからない」という反応が返ってきます。業務において無意識にやっていたことが実はデータ活用なのに、そう認識していないケースが多いということです。
地銀などは、各都道府県においてどの企業にも負けないほど圧倒的な量と正確さのデータを持っています。また、金融機関というのは、他の業界に比べれば、いろいろなデータを活用するためのシステムや社内体制、人材が揃っているはずです。AIで作り出される人工的なデータなど、新しいものをどんどん取り込める素地はあるわけです。ですから、お金以外のデータも蓄えてしっかり活用していく意識を持つことが大切ですし、そうすれば他業界にとってモデルとなるような事例がどんどん出てくる存在となり得ると思います。
業界全体のデータ活用底上げのカギを握るのは“泥臭く生々しい事例”
現在の金融業界において、データ活用のハードルとなっているものとは?
- 小川
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ひとつは、先ほど佐藤さんからお話のあった、「自分たちにはできない、まだ早い」という文化があることです。そういう風潮の中で、「データを活用したい」という人材が1人現れても、なかなか周囲の理解を得られず、いわば“みにくいアヒルの子”状態になってしまう。本来は皆が飛ぶ力を持った白鳥なのに、そのことに気づいていないというのが、多くの金融機関に共通する問題ですね。
- 佐藤
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象徴的な例としてよく話題になるのが、ある企業でのコンペティションの事例です。社内にデータを活用できる人材がいないということで、外から人材を集めるためのコンペティションを実施した結果、上位入賞者は全員自社グループの社員だった、という。人材はグループ内にちゃんといたのに、気づいていなかったわけです。
- 岡田
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最近では、大手金融グループがグループ内の社員を対象とデータコンペティションを開催し、社内のデータ人材の発掘に取り組んでいます。
データサイエンティストを採用しようとすると、社外から中途採用で採る事を考えてきたが、金融特有のカルチャーや働き方が他業界から来る人材にはフィットしづらく定着せずに離職してしまう傾向にあります。それに対して、社内のデータコンペティションは、既に金融特有のカルチャーにフィットしていて、自社の業務を理解している人材を対象に人材発掘・育成を試みるため、成功例が多く出てきています。実は、銀行広く見渡すと、新人などの20代や営業店にデータサイエンティストの素養も持った人材が埋没していた!みたいなことが分かってきました。
このようなデータコンペの取組みは、大手金融グループであれば単独で開催できるが、地域金融機関では単独開催が難しい。そこで協会で2022年12月頃~データコンペを開催し、金融業界横断で無償で参加頂き、地方の金融データ人材の発掘・育成に取り組む予定です。
- 佐藤
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確かに、「データ活用で金融機関を変えていこう」というやる気のある方が、社内の定期的な異動や組織再編で諦めざるを得なくなった、というケースはよくあります。FDUAとしては、標準化委員会やデータコンペ委員会の活動を通してそういう人材を発掘し、それぞれの金融機関内でポジションを守っていくことにつながる、データ活用の取り組みを続けていける場を提供したいと思っています。
そうした状況において、FDUAに加盟したセゾン情報システムズに対し、どのような活躍を期待していますか?
- 佐藤
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すべての金融機関に必ず導入されているソリューションを提供している企業というのは、実は御社しかない。それは本当にすごいことで、網羅性という点で非常に意味があると思っています。この機能を使ってこんなことをしているという、金融機関にとって参考になるケースやノウハウをたくさんお持ちだと思うので、それを一緒に広めていだたきたいと考えています。
- 小川
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御社のHULFTは、「データをつなぐ」というところでは私の経験上、他にはない有用なソリューションだと思っているので、ぜひデータ統合が本当にできている企業の事例を横展開していただきたいです。というのも、ある保険会社の方に、なぜこんなにデータ活用が遅れているのかと聞いたら、「今、ID統合のプロジェクトが走っていて、それを2年間やったあとにデータ分析に取りかかる予定です」と。いやいや、その状況は何年も前からまったく進展していませんよね、という。つまり、「データをつなげる」ところに深い谷間があるということです。
- 佐藤
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データをどう活用するのかを決めずに、連携するということだけが先に決まっているというのも、データ活用が進まない一因としてありがちですよね。どの会社、どの部署にも同じように御社のソリューションが入っていて、その気になればいつでもつなげられる。でも、つなげたデータをなにに使うかが決まらないからつなげない、ということが起きてしまう。
- 小川
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そういう状況で、「こんな“巨大戦艦”ができました!」みたいな、すごくきれいなデータ連携・活用の事例の話をされても、どうやってそこまでいけばいいのかがわからない。もっとコンパクトで簡単な使い方でいいので、こういう目的のためにまずこのデータをつなげて、次のステップでこうつなげてという、金融機関に特化した事例を共有していただけると、データ活用しやすい状態にぐっと近づくだろうな、と期待しています。
- 岡田
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そうですね。どんな企業であっても、すんなりデータを活用できるようになるわけがない。ですから御社には、課題や苦労など、生々しい話を共有していただきたいです。金融業界には全体的に、ネガティブな情報を出さずに隠す文化があると感じます。競争領域においてはある程度仕方ないとしても、基本的なデータ統合や人材育成といった非競争領域においては、ノウハウを共有し合ったほうがお互いにメリットがあるはずです。
特に近年は、金融業界への異業種からの参入が増え、狭い業界内だけで争っている時代は終わりつつあります。そういう中、データ統合に関する泥臭い、生の事例を一番多くお持ちの御社が、それを発信していくことには大きな意義があると思っています。
セゾンテクノロジー公式youtubeチャンネル「シス☆スタ」
◆シス☆スタ 【金融データの活用とは!?企業間のバラバラデータはスルスルになる?】◆
セゾンテクノロジー公式youtubeチャンネル「シス☆スタ」にて、
金融データ活用推進協会様のインタビュー動画をご紹介しています。併せてご覧ください。


