SpaceX社などで話題の「宇宙AIデータセンタ構想」への賛否両論が激しい件~現実はシンプルではない
マーケティング部の渡辺です。
データやITなどに関する様々なことをゆるく書いているコラムです。
「宇宙AIデータセンタ構想」は素晴らしい未来か、それとも無理筋か?
今回は、最近話題になることが多くなってきた「宇宙空間にAIデータセンタを作る構想」について、賛否両論があることを話題にしたいと思います。
「宇宙AIデータセンタ構想」が何のことかわからない人も、そちらについても説明しますので安心して読み進めてください。
この記事を書くきっかけになったのは、こちらのニュースです。
⇒孫正義氏、イーロン・マスク氏の宇宙AIデータセンタ構想に疑問を呈する…「何の意味があるのか?」 | Business Insider Japan
皆さんご存じの孫正義氏、これまでの世間的な印象からすると「新しいことにどんどんチャレンジしてやりましょう」と言いそうなタイプの人です。むしろ、大賛成して兆単位で出資しますとか言いそうな印象すらありますが、なんと「そんな孫正義さん」が構想に異議を唱えており、宇宙ではなく地球上でのデータセンタ整備に引き続き注力すると言ってしまいました。
これは本格的に賛否両論になってきたな、と思いましてこれを書くことにしました。
「宇宙AIデータセンタ構想」とは
まず、「宇宙AIデータセンタ構想」とは何かを簡単に説明しましょう。
この構想は、SpaceXやテスラでおなじみのイーロン・マスク氏が支持していることで広く知られるようになりました。空前の規模の株式上場で話題になったSpaceX社においても、宇宙AIデータセンタ構想は、同社が今後取り組む大事業として掲げられているものです。
生成AIブームによるデータセンタの建設ラッシュ
執筆現在の昨今、全世界的に大変な生成AIブームです。「生成AI向けのデータセンタ建設」も恐ろしい勢いで進められており、あまりにも建設の勢いが凄いので、NVIDIA社が一つで500万円以上もすることすらあるハイエンドGPUを全力生産しても、飛ぶように売れ続けて足りないような状況です。データセンタの稼働に必要な電力も逼迫し、発電所や送電線の建設ラッシュすら起こっています。生成AIのデータセンタに関連するものなら、何もかもが逼迫する勢いになっています。
このような状況は「バブルではないのか」という意見も当然強くありますが、現状はどうなっていますか?と聞かれるなら「AI向けデータセンタをいくら作っても足りないと思えるほどの状況」です。
「データセンタが足りないなら宇宙空間に作ろう」
そういう状況で出てきたのが、「データセンタが足りないなら宇宙空間に作ろう」というアイディアです。推進派としては以下のようなメリットがあるとしました。
- 太陽光発電で無料無尽蔵にエネルギー供給ができる
- 宇宙空間に太陽電池パネルを展開すれば、太陽から降り注ぐエネルギーで常に発電できてAIデータセンタを苦しめている電力問題を解消できるという意見
- 冷たい宇宙空間で冷却できる
- 地上ではあり得ないくらいに冷たい宇宙空間なので、AIデータセンタを苦しめている(大量の電力消費による)冷却の問題も解決できるという意見
さらにはこの構想を推進しはじめたのがイーロン・マスク氏です。「宇宙ロケットを大量に打ち上げているSpaceX社の話題性に、大ブームの生成AIの話題性が合わさる」ことになったわけで、世間的には話題性が爆発している感じになりました。
「宇宙空間にAIデータセンタを作る構想」への疑義(技術的に無理筋では?)
一方で当初から、この構想は「技術的に無理筋ではないのか」という批判なり疑義もあります。私も、ちょっと難しいことが多いのではないかと思えています。
宇宙空間では、むしろ冷却は困難
宇宙空間は冷たい空間ですが、しかしながらデータセンタの冷却は困難なのではないかと考えられます。なぜなら宇宙空間には空気がないからです。
地上のデータセンタでGPUを冷却する時には、GPU(半導体)が発熱し、その熱がヒートシンクに移動し、熱くなったヒートシンクから冷たい空気に熱が移動し、熱くなった空気をファンで吸い出して排気する、というようなことが行われています。
注目してほしいのは、熱が「隣接する物質を伝って」物質により運ばれていることです。「GPUの半導体」「ヒートシンク」「空気」は互いに接触していて、熱は隣接する物質を伝わって外に運ばれて(「対流」や「伝導」により)冷却が実現されています。
しかし宇宙空間、ほぼ真空ですからデータセンタの周囲に物質はありません(むしろ真空で断熱している魔法瓶のようなことになります)。地球上でのデータセンタと同じ方法では、外部に熱を逃がすことができません。
宇宙では「放射冷却」でしか冷却できない
ほぼ真空の宇宙で冷却を行いたいなら「放射冷却」(熱放射)を利用することになります。高温になった物質の表面から赤外線(電磁波)が放射される現象があり、それにより宇宙空間に熱のエネルギーを逃がす方法です。しかしながらこの方法では、巨大な放熱板をつける必要があり、さらには「対流」や「伝導」のように効率的に熱を外部に逃がすことは難しいと考えられます。
十分な冷却ができなければ、データセンタとして稼働して大量の演算処理を行おうとしても、演算処理で発生する熱が十分に排出できずにうまく稼働できなくなってしまいます(あるいは超高温になり壊れてしまう)。
宇宙へのロケット打ち上げがハイコスト
宇宙空間への何かをロケットで打ち上げること自体がハイコストです。かつては一キログラムのものを打ち上げるコストだけで100万円はかかってしまうとか言われたりしていたように思います。
現在、ロケットの再利用などによって大幅な打ち上げコスト低下が進みつつありますが、劇的なコストダウンが行われたとしても、地上のデータセンタでは「重量の問題をほぼ気にすることなく建設出来る」ことに比べると、明らかに不利な要素ということになります。
強い宇宙放射線への対策が必要
宇宙空間では強烈な放射線が飛び交っています。人体にとって有害(被曝する)であるだけではなく、電子機器にとっても故障や劣化の原因になり、メモリ上のデータが化けてしまうようなことも起こります(0のはずのビットが1に化けてしまうなど)。
処理エラーが起きやすいことに配慮して処理を実行する(演算効率が下がります)、放射線を防ぐ機構を設ける(重量増の原因)、あるいは特殊な配慮がなされた専用半導体を利用する(新たにGPUなどを開発する必要があります)、などの対策が必要になる可能性があり、こちらも地上のデータセンタでは基本的に考慮不要で、宇宙が不利な要因になります。
AIデータセンタの運用コストに占める電力コストは7%に過ぎない(孫正義氏)
ここまで挙げてきた懸念点は、構想の問題点としてよく指摘されているものですが、孫正義氏は「そもそものコスト面でも疑義がある」と言っています。
宇宙なら太陽光で電気代が無料になるのだとしても、AIデータセンタの運用コストにおいて電力のコストは7%に過ぎないので(孫正義氏によると)、7%だけコスト削減できたとしてゲームチェンジャーにはならないのでは、と。一方で、ここまで挙げてきた懸念点によるコスト増は当然予想されます。
通信遅延増大による効率低下(孫正義氏)
さらには孫正義氏、宇宙と地上の間での通信(や宇宙データセンタ同士での通信)となることから発生する通信遅延によってデータセンタの効率低下が見込まれることも指摘しています。
これらの事情を踏まえると、地上のデータセンタに対する優位性があるのかどうか現時点では確証が持てず、宇宙が有利だという結論が得られるとしても何年もかかると考えられる、出資してくれる株主に対して宇宙に投資する説明ができない、とのことです。
- メリット
- 太陽光発電で電力コストが無料にできるかもしれない
- 宇宙空間は低温である
- 懸念点
- 冷却自体が困難になると考えられる
- 宇宙への打ち上げコスト
- 宇宙放射線対策
- そもそも電力コストは7%に過ぎない説
- 通信遅延の増大が避けられない
ただし、イーロン・マスク氏「わかってやっている」気もする
さて、ここまで挙げてきたような疑義について、イーロン・マスク氏は何も理解していないわけではなく、これら真っ当なツッコミがあることは、さすがに承知しているのではないかと私は考えています。
また、これら指摘に対するクリアな解決策がすでに用意されているのなら、すでにその説明がなされての宇宙AIデータセンタ構想となっていて、孫正義氏もそれなりに納得なさっているはずだと思います。
冷却の問題についても、打ち上げコストの問題などについても、SpaceX社においてそれらを解決する技術的なチャレンジについての検討がすでになされているように思えます。どのようにそれらの取り組みを進めるかも検討され、状況が改善する余地はあると考えているものの、それでもなお十分な勝算があると考えていない(のでクリアな解決策は示されていない)、のではないかと思っています。
宇宙ロケットビジネスは打ち上げ需要次第
「宇宙AIデータセンタ構想に十分な勝算があるわけではない」のに巨費をかけて構想を推進するのはまともじゃないように思えるかもしれません、でもSpaceX社としては、孫正義氏の懸念した通りだったとしても構わない、という話かもしれません。
SpaceX社は民間企業が宇宙ロケットを開発して打ち上げるビジネスをしていますが、ビジネスの展開にあたり、技術以外に「すごいこと」を現実にしています。
民間企業が参入するにあたり、宇宙ロケットビジネスにはそもそも根本的な限界が「本来は」ありました。それは、ビジネスの最大サイズが、全世界の人工衛星の打ち上げ需要で頭打ちという現実です。
例えば、2010年に全世界で打ちあげられた人工衛星の総数はおよそ100機くらいでした。すると衛星一機あたり10億円売りあがるという想定にしたとて、全世界の衛星打ち上げを全部独占しても1000億円にしかならないわけです。その程度の売り上げでは、火星を目指して費用のかかるロケット開発をどんどん進めるのは難しい感じがしないでしょうか。
じゃあ民需でなんとかできないか、ということで一時期宇宙旅行の実現を標榜するロケットベンチャーが多くあったのだと思います。しかし、訓練を受けた宇宙飛行士を宇宙に届けるだけでも大変難易度が高いのであって、民間人の旅行の実現となると困難すぎる目標でした。しかも、巨費がかかるのでは一部金持ちの酔狂程度しか需要がありません。
需要がないなら自分で作ればいい:スターリンク
ところがSpaceX社、思わぬ方法でこの状況を打開してしまいました。「客がいないなら自分が客になればいい作戦」です。
SpaceX社は自社で地球の低軌道(LEO:Low Earth Orbit)に小型通信衛星を大量に打ち上げ、それによって宇宙インターネットサービスを開始すると発表します。皆さんご存じの「スターリンク(Starlink)」です。自社の新事業で空前の人工衛星打ち上げ需要を生み出し、ロケットをバンバン打ち上げられる状況を作ってしまいました。
果たしてスターリンクのようなサービスを使いたい人がどれくらいいるのか?という疑問も当初あったように思います。しかし、その後に発生したロシアによるウクライナ侵攻ではスターリンクのようなサービスが国の命運をも左右する技術であると認識されるようになったこともあり、話題になったSpaceX社の上場時にはスターリンク関連の年間売上が既に113億ドル(1.8兆円)にも及んでいることが明らかにされています。
宇宙AIデータセンタ構想の成否はともかく「ロケットは打ち上げられる」
スターリンク、結果的にはSpaceX社にとっての稼ぎ頭になる大成功を収めていますが、事前には成功する取り組みなのかどうかは不透明な感じもありました。ウクライナの件がなければ、興味深い新サービスだと世間に認識されつつも、しかし多くの人は従来のインターネット接続サービスで大きく困っていないので、話題になりつつも今でもまだ赤字事業だったかもしれません。
同じく今回、宇宙AIデータセンタ構想は成功する取り組みなのか不透明な状態で、孫正義氏にも今のところ「良い話には思えていない」ようです。私も、すでに書いた通りの認識で、ちょっと難しい要因が多いかなあと思えているため、孫正義氏と同じくAIデータセンタなら地上に配置した方が良くありませんか?と思っています。
もし懸念の通り、「宇宙にGPUを載せた人工衛星が多数打ち上げられるも、予想通りに赤字サービスのままになる」のだとしても、「ロケット打ち上げ」についてはどんどん実施されることになります。そしてそういう状況自体が、火星到達を目標とするSpaceX社にとっては悪くない状況です。新事業は赤字事業のままでも、ロケット打ち上げでは他社を圧倒することができるのなら。
宇宙AIデータセンタの「本当の長所」かもしれないこと
私個人の意見としてはですが、電気代がかからないから、宇宙で冷たいから、という長所の説明は疑わしく、地上のデータセンタに対してコスト面での優位を生じさせることは難しいように思えます。しかし一方で、現在積極的に言及されていないことが将来的に売り込まれるのではないか、とも考えています。
まず、宇宙空間は「どこの国にも属さない」ので、宇宙AIデータセンタは地上のデータセンタとは異なり「どこの政府からも独立している」特徴があります。執筆している現在、脆弱性を発見する能力が高い生成AIサービスとして「Claude Mythos(ミュトス)」が大変な話題になり、それからすぐにMythos(ミュトス)の提供が「アメリカ政府の意向により突然停止される事件」がありました。政府の意向次第でそういう事態が起こりうるのは困るなあ、というようなニーズにとっては、「どの政府の管轄下にもない宇宙空間上である」ことは有意義な特徴でしょう。
また通常の利用であれば、地上から宇宙までデータを送って処理し、処理結果を宇宙から戻すことになって通信遅延が問題になりますが、「スターリンクの利用を前提として考える」なら、通信のみならず処理まで宇宙で完結している方が合理的になってきます。そうすると、スターリンクの利用者への売り込みや、あるいはスターリンク利用者向けのクラウドサービス提供基盤としての利用も見込めるかもしれません。
もしこれら想像の通りなら、AI向けデータセンタとしての需要より、一般的な利用ニーズを満たすデータセンタとしての需要があるのではないかと思われます。よって、宇宙AIデータセンタではなく、AWSのようなもっと一般的に利用できる機能が揃った宇宙クラウドサービスや、宇宙空間に安全にデータを保管するサービスが衛星軌道上に用意されて、それが将来、SpaceX社の新事業になっているかもしれません。
「今後どうなるか」が、わかりにくいところにある例
つまり、宇宙AIデータセンタ構想が成功しそうかどうかは、冷却がどうなりそうか、重量と打ち上げコスト、通信遅延は問題にならないのかなど、事情を理解していない人には「ちょっと意外にすら思えること」が今後を左右するのではないかと思える状況です。
そして世の中では、「ちょっと意外なこと」が成功と失敗を分ける重要なことだった、みたいなことは結構多いのではないかとも思っております。
「わかりにくい」ことが、成功と失敗を分ける「重要なこと」になっている
例えば弊社のファイル連携ミドルウェアのHULFT(ハルフト)、ご存じの通り日本で圧倒的なデファクトスタンダード製品として「今なお」売れ続けています。しかしながら、なぜ安全安心確実にファイル転送を完璧に実現できる連携基盤が、これほどまでに世の中にとって必要だったのかは理解してもらいにくいところがあります。どうしても「ファイル連携?」というようなリアクションになりがちなようです。
宇宙AIデータセンタ構想についても似た状況があり、もしかすると「冷却ですか?」と思えてしまったとしても、むしろ今後は冷却技術での各社動向などがこの分野の将来を考えるにあたっての要点ではないかと思えます。あるいはここで話題にしたこと以外の「もっと意外なこと」が勝敗の分け目ではないか、とも思えています。
何と「つなぐ」か、試行錯誤する能力が今後どうなるかを左右するのでは?
実はイーロン・マスク氏も孫正義氏と同じ理解であったとして(まさか「何もわかってない」ということは無いでしょうから)もしそうなら、同じ現状認識なのにどうして結論が違うのでしょうか。イーロン・マスク氏だけが「宇宙ロケットビジネス+宇宙AIデータセンタ計画」として、二つの取り組みを「つなぐ」手段を持っているか持っていないかが結論の分かれ目になっているのではないでしょうか。
また、AIデータセンタではない宇宙での取り組みにも注目すべきではないか、とも考えてみたわけですが、それについても「宇宙AIデータセンタ計画+既存のスターリンク」や「宇宙AIデータセンタ計画+ソブリンクラウドのニーズ」などの、他のものと「つなぐ」ことで勝ち筋が生まれる可能性を考えてみた意見でした。
弊社では、多種多様なデータやソフトウェア、クラウドサービスなどをGUIだけで自在にデータ連携できるプロダクト「DataSpider」や「HULFT Square」を提供させていただいていますが、IT活用においても「Salesforceにあるあのデータをkintoneで使えたらすごく便利なのに」のような「つないで組み合わせる」ことが「実は現実のIT活用ニーズ(の勝ち筋)で多い」ことから長年にわたってご支持を頂いております。
このような「つなぐ」ニーズは事前に分析して判明するニーズばかりではなく、ITシステム導入後に業務の現場から「すごくいい気付き」として出てくることがあります。あるいは、積極的に現場で試行錯誤をすることにより「良い活用方法」が見つかることもあります。弊社プロダクトが「GUIだけで」データ連携を構築できるようになっているのは、業務の現場が自ら活用できるようにすることで、そのような可能性からうまく結果を引き出せるようにするためです。
私としても(孫正義氏と同様に)、現状の「宇宙空間にAIデータセンタを作る」計画についてはどうにも腑に落ちないところがあります。ただし、すでに書いたように「そんなことは割とお構いなし」にロケット開発側の事情で計画が進む動機があると考えるので、とりあえずは「宇宙に計算資源が多数配備された状況」が「人類史上初めて現実になる」のではないか、と考えています。
AIデータセンタ計画は(予想通りに)どうも今一つだ、しかし「宇宙に計算資源が既にある」かつてない状況にはなった。何か良い使い道はないだろうか。もしかするとSpaceX社ではない他のどこかが「すごい使い方」を見つけてそれが大化けするような展開(スターリンクの具体的有用性を大量に発見したのは、SpaceX社ではなくウクライナ軍)もあるのでは、と思っています。
SpaceX社の現在の説明通りに話が進むのか、それとも「それ以外の活用方法」が後から見つけられることになるのかはわかりませんが、もし宇宙データセンタ時代が到来したなら、「DataSpider」や「HULFT Square」の活用を検討いただければと思います。おそらくその時には、弊社製品にも「宇宙データセンタとの接続アダプタ(接続コネクタ)」が整備され、業務の現場がGUIだけで「つない」で活用方法を試行錯誤し、自社ビジネスでの「宇宙IT」の活用に取り組む手段として活用いただけるはずです。

