ハーベスト攻撃(HNDL: Harvest Now, Decrypt Later)
ハーベスト攻撃(HNDL: Harvest Now, Decrypt Later)
データ活用やDX成功に必要な考え方を、各種キーワードの解説で理解できる用語解説集です。
今回は、よく話題にされるようになってきた、量子コンピュータ(量子計算機)が十分に完成していない現在でも耐量子計算機暗号への対応が必要となっている原因である「ハーベスト攻撃のリスク」について解説をします。
ハーベスト攻撃(HNDL: Harvest Now, Decrypt Later)とは
ハーベスト攻撃(HNDL: Harvest Now, Decrypt Later)とは、「現時点で暗号化されたままデータを収集して保存しておき、将来にその内容を解読する」時間差の攻撃方法のことです。
現在、世界各国で量子コンピュータによる暗号解読の脅威に備えた、耐量子計算機暗号(PQC: Post-Quantum Cryptography)の導入などの対策が急ぎ進められていますが、これは「今データを取得し、後で解読する」ことで量子コンピュータ実用化後の将来に攻撃を行う「ハーベスト攻撃」(HNDL: Harvest Now, Decrypt Later)のリスクが現時点でも存在しているためです。
「HNDL: Harvest Now, Decrypt Later」と同じ意味で、「SNDL: Store Now, Decrypt Later」 「CNDL: Capture Now, Decrypt Later」と呼ばれることや、学術的に 「retrospective decryption(回顧的復号)」 と表現されることもあります。
※耐量子計算機暗号について詳しく書いた記事がこちらにあります
⇒耐量子計算機暗号(PQC: Post-Quantum Cryptography)/ 量子コンピュータ / クリプトアジリティ / ハーベスト攻撃|用語集
「今すぐ量子コンピュータの脅威に備えなければならない」のはなぜか
「ハーベスト攻撃」という暗号解読のリスクがあることを知っておくことは、セキュリティ対策として現状何をしなければならないか、その優先順位を正しく判断する上においてとても重要なポイントです。
量子コンピュータの時代はまだ先、しかしなぜ騒がれているのか?
少なくとも執筆現在においての量子コンピュータとは、世間で話題になることは増えているものの、まだまだ本格的な実用化まではしばらく時間があると考えられる状況です。
我々が日常利用するパソコンやスマホが量子演算能力を備える時代はまだ先だと考えるべきでしょうし、巨費をかけての国家レベルでのスーパーコンピュータのような形を想定しても、「まだ十分な実用化は先である」というのが適切な判断ではないかと思います。
量子コンピュータはまだ研究開発段階であるにもかかわらず、最近になって「量子コンピュータによる暗号解読の脅威に今すぐ備えよう」という話題をよく耳にするようになっているはずです。
実用化はまだ先なのに騒ぎ過ぎではないか?と思えるかもしれません。あるいは国家の安全保障のような分野ならまだしも、私たちには大げさすぎる対策優先度の低い話に思えているかもしれません。しかしながら、実は多くの人にとって「現時点で既に」将来における量子コンピュータによる暗号解読や情報漏洩のリスクが発生しており、それに対してどう対処するのか「今すぐの判断を迫られていますよ」というのが今回の話題です。
「ハーベスト攻撃」のリスク
現時点で既に発生している量子コンピュータによる暗号解読や情報漏洩のリスクとは、つまりこういう懸念です。あるいはこのような「時間差の攻撃」のことを「ハーベスト攻撃」と呼んでいます。
- 暗号化されたデータを「手に入れる」ことは今すぐできる
- 例えば2026年時点にインターネット上を流れているデータを、キャプチャしておくことができる
- キャプチャしても、現時点では解読はできない
- しかし例えば20年後、量子コンピュータが実用化されたならば、その時点で過去にキャプチャしたデータを解読することが可能になる
たしかに、当面はリスクが顕在化することはないでしょう。しかし、「現在、対策を怠ったことにより、10年後や20年後に重大な影響が生じる可能性がありますが、どうしますか」という「今すぐの判断」を、実は迫られている状況にあることがわかります。
どんな事故が起こりうるか
公開鍵暗号を用いたインターネット上の通信一般を盗聴しておけば後日解読可能になる可能性が高く、公開鍵暗号による電子署名を用いたデータについても電子署名が後日捏造可能になってしまう恐れがあります。
公開鍵暗号を用いたインターネット上の通信一般が解読されるリスク
具体的には「HTTPS通信一般」や「VPN」「リモートデスクトップ」など、インターネット経由での安全安心な通信を実現する基盤となっている公開鍵暗号が脆弱になる可能性があり、何らかの手段で通信データを通信経路でキャプチャされると量子コンピュータ実用化後に内容を解読される恐れがあります。
例えば、ネット通販でクレジットカード番号を入力したとします。現時点ではHTTPS(TLS)通信で保護されているので、通信経路で誰かが盗聴してもデータが漏洩するリスクはないですが、それが将来的には解読されるかもしれません。
具体的には「データが保護されなければいけない期間」と「安全な新技術への移行にかかる期間」を足した期間が、「量子コンピュータによる解読が可能になると予想される時期までの期間」を超えてしまう場合には、ハーベスト攻撃のリスクを今すぐ考えるべき状況だと判断できます。具体的には、次のように考えます。
- X:データが保護されなければいけない期間
- Y:安全な新技術への移行にかかる期間
- Z:「量子コンピュータによる解読が可能になる」と予想される時期までの期間
ここで「X + Y > Z」が成り立つ場合には、明らかにハーベスト攻撃のリスクが存在しており対策が望ましいことがわかる(モスカの定理)
例えば、量子コンピュータによる解読が15年後に可能になると想定してみます。クレジットカード番号は数年ごとに更新されるため保護期間が短く、この基準では緊急性は高くありません。一方、「住所や氏名などの個人情報」は一生変わらないことが多いものであり、15年経過していれば漏洩しても問題ないとは言いにくいはずです。加えて、データが再度安全に保護されるのは「対策が完了した後」ですから、移行完了に3年かかる見込みであれば、いますぐ対策しても完了後に残された時間は12年しかないことがわかります。
同じく、「VPN」や「リモートデスクトップ」のようなものを通じて流れた重要情報についても、通信経路の途中で誰かがキャプチャしていた場合には、将来的に中身が漏洩するリスクが生じていることになります。
電子署名が捏造可能になるリスク(関連するリスク)
ハーベスト攻撃とは直接は関係ありませんが、同じく今から対策しておかなければ将来に大きな事故を起こす可能性があるものとして「電子署名でのリスク」があります。
以前から利用されてきた公開鍵暗号が脆弱になってしまうことから、電子署名についても将来的にリスクにさらされる可能性があります。通信内容の解読は過去に行われた通信が対象ですが、電子署名は将来にわたって有効性が期待されるものです。例えば、10年前に行われた電子署名が今も有効であることは引き続き期待されるはずで、本格的な事故が起こる可能性もあります。
「この契約書に私が電子署名しました」(デジタルデータでの法的な意思表示)が現在有効なのは電子署名が捏造できないことが大前提ですが、量子コンピュータ実用化後には、契約書の内容を変更して署名しなおすことができるようになってしまい、電子署名が無意味になって法的な権利行使などができなくなる恐れがあります。
暗号資産、例えばビットコインのブロックチェーンは、資産の所有権を電子署名によって表明できるようにしており、例えばビットコインの口座番号である「アドレス」とは公開鍵そのものなので、何も対策が取られない場合(おそらく対策は取られるでしょうが)には暗号資産の仕組み自体が崩壊してしまうこともありえます。
共通鍵暗号(AES暗号)やハッシュ関数などは大きな影響を受けない
ただし量子コンピュータが実用化されたからと言って、すべての暗号が解読されるリスクにさらされているわけではありません。例えば共通鍵暗号として広く使われているAES暗号については、鍵長が実質的に半分になる程度の影響ではないかとみられています。そのため、256ビットの暗号鍵を用いる「AES-256」ならば、量子コンピュータが実用化された後も十分な安全性が保たれるのではないかと考えられています。
また同じく、関連した技術である暗号学的なハッシュ関数(SHA-512など)についてもビット数が多いものを使えば対策できる程度の影響だと考えられており、量子コンピュータの登場で大きな影響を受けるのは「公開鍵暗号」に関連した技術が中心だとみられています。
※「従来の公開鍵暗号が安全ではなくなる」とはどういうことか、およびその時にどんな問題が起こるかについては、こちらの記事でも詳しく説明しています。
⇒耐量子計算機暗号(PQC: Post-Quantum Cryptography)/ 量子コンピュータ / クリプトアジリティ / ハーベスト攻撃|用語集
どのような対策をとるべきか
ハーベスト攻撃のリスクに対処するためには、量子コンピュータが実用化された後にも安全性が保たれることが期待される公開鍵暗号方式を用いた「暗号通信」や「電子署名」への切り替えが望まれます。すなわち「耐量子計算機暗号」への移行が望まれます。
ここまでの説明でわかるように量子コンピュータによるリスクそのものはずっと以前から存在していましたが、どうして最近になって、「量子コンピュータのリスクに備える必要性があること」が話題になることが多くなったのでしょうか。それは「リスクへの対策が具体的に可能になった」ためです。
2024年8月に、アメリカの公的機関であるNISTが耐量子計算機暗号「ML-KEM」等を正式標準化しました(NIST Releases First 3 Finalized Post-Quantum Encryption Standards | NIST)。これにより、量子コンピュータが実用化されてもなお安全性が保たれる代替技術の具体的な整備が始まり、実際に対策をスタートすることが可能な状況になりました。リスク自体は以前からありましたが、「とうとう対策がなされた新技術が登場して期が満ちた」ので、皆さん実際に対策に取り組みましょうとして話題になり始めたわけです。
各国政府が2035年くらいまでの移行完了を目指していることを表明し始めたのも、そのような状況を踏まえてのことです。つまり、これから社会全体での耐量子計算機暗号への対応が進むと思われる状況にあります。
我々が具体的にすべきこと
一般の我々がまずすべき対策は、自社で利用しているIT製品がどのような暗号技術を利用しているか、自社の暗号化されたデータや電子署名についてどのような技術が利用されているかを確認することです。その上で、耐量子計算機暗号に対応した製品へのアップデートや置き換えなど、適切な対策をとることが求められます。
- クリプトインベントリの作成
- 自社で利用しているIT製品において、利用されている暗号技術をリストアップする
- 自社の暗号化されたデータや電子署名についてどのような技術が用いられているかを確認する
- 対策をする
- 耐量子計算機暗号に対応した製品へのアップデートや乗り換えを行う
- 保有するデータや電子署名された文書を、今後も安全な技術で保護されたものに置き換える
- あるいは対策が難しい場合には、そのITシステムを外部から安全に隔離する、その電子署名が量子コンピュータ実用化前に行われたものであると証明可能にしておく、などの方法で対策をとる
- 以後の継続的な対応を可能にする(クリプトアジリティ)
- 耐量子計算機暗号に、現在知られていない脆弱性が見つかってしまう可能性にも備え、何かあった時には「迅速に別の安全な暗号技術」に乗り換えられるように備えておくことも望まれる
これまで長年使われてきて十分な利用実績がある従来の公開鍵暗号とは異なり、これから広く利用される耐量子計算機暗号には十分な利用実績がありません。そのため後日、予想もしていなかった問題点が見つかってしまい暗号として安全に利用できなくなるリスクもあり、そうなった時の備えも一緒にしておきましょう、と言われています。
また、自社がIT製品を提供する側である場合、ないしは自社開発のITシステムを用いている場合には、以下のようなことが必要になるのではないでしょうか。
- 自ら対策をする必要(他社がやってくれるわけではないので)
- 耐量子計算機暗号に対応するアップデートを行う
- 保有するデータや電子署名された文書を、今後も安全な技術で保護されたものに置き換える
- 耐量子計算機暗号に、現在知られていない技術上の問題が発見される可能性にも備え、何かあった時に「別の安全な暗号技術」に乗り換えられるように備えておく
一般人のIT利用環境での対応は着実に進められつつある(我々が知らないだけで)
幸いにして、多くの人が日常的に使っているソフトウェアについては、すでに耐量子計算機暗号への対応が進みつつあります。
例として、Webブラウザの「Chrome」ならば、2024年5月にリリースされたバージョン124から耐量子計算機暗号でのHTTPS通信がデフォルトで有効になっており、「Firefox」でも2024年10月にリリースされたバージョン132から対応が始められています。
実際にWebブラウジング時に耐量子計算機暗号での安全な通信(ML-KEMでのTLS)が行われるためには、Webブラウザ側での対応に加えて「通信先のクラウドサービス等もML-KEMに対応している必要」がありますが、こちらでも対応が進みつつあります。
例えば、代表的なWebサーバである「Apache HTTP Server」や「Nginx」でも、新しいバージョンのOpenSSLを「HTTPS通信を実現するソフトウェア」として利用することで対応可能になりつつあります。
大手クラウドサービスでも対応が進んでおり、例えばAWSでは主要サービスで耐量子計算機暗号への対応が始まっています。あるいは主要サービスや主要ソフトウェアではこのように既に対策が進んでいるので、他のソフトウェアでも対応しないわけにはいかなくなりつつあります。
ファイル連携ミドルウェア「HULFT」でも耐量子計算機暗号対策が進められます
我々が自社で開発販売している、ファイル連携ミドルウェアの「HULFT」(ハルフト)は、メインフレームやUNIXでの利用を中心として、安全安心確実なデータ連携を実現する基盤製品のデファクトスタンダードとして、長い間利用いただいております。
銀行の基幹システムなど最高度の安全安心が必要な分野で長年ご利用いただいておりますが、もちろん耐量子計算機暗号への対策もしっかりと行います。
長い歴史を持つ製品ですが、安全安心に関する最新技術の採用は以前から進めています。例えば共通鍵暗号として事実上の世界標準である「AES暗号」にも以前から対応しており(前述のとおり、256ビット鍵長のAES暗号は量子コンピュータ実用化後も十分な安全性が保たれると考えられています)、最善の安全安心をお届けすべく製品の改良を続けております。
量子コンピュータ時代への備えとして、今後も安全性が保たれる技術だけを用いていることの確認、および既存の暗号技術に未知の問題点が見つかった場合にはその対策を取ります。「HULFTを使っている部分は、トラブルも起こらず安全で安心して利用できる」状態を今後も維持します。
ファイル連携ミドルウェア「HULFT」(ハルフト)についてはこちらをご覧ください
⇒HULFTシリーズ|サービス
クラウドサービスやパッケージソフトウェアの切り替えを容易にする「つなぐ」技術
利用中の製品が耐量子計算機暗号に対応しないため「代替となるクラウドサービスやパッケージソフトウェアを探して置き換える」対応を取るのだとしても、「すでに利用しているものから置き換える」のは一般的に、簡単なことでも、迅速に行えるものでもありません。
利用中のシステムからのデータ移行は大抵必要になりますし、新旧システムの双方にデータ連携できるようにした上で必要なデータ変換処理を用意するなど、それだけで大変な手間がかかることが良くあります。
さらには、ある日を境に一気に利用システムを切り替えできるとは限らず、並行稼働期間を経て移行するなら、なおさら手間と時間がかかることになります。
「つなぐ」技術を活用ください
このような各種の「連携処理」を、「GUIだけ」で効率的に開発できる手段が存在します。「EAI」や「ETL」、「iPaaS」と呼ばれる、「DataSpider」や「HULFT Square」などの「つなぐ」技術です。これらを活用することで、新旧システムをスムーズかつ効率的に連携させることができます。
データ連携ソフトウェア「DataSpider」についてはこちらもご覧ください
⇒DataSpider Servista|サービス
「つなぐ」ことができるクラウドサービス「HULFT Square」についてはこちらもご覧ください
⇒HULFT Square|サービス
関係するキーワード(さらに理解するために)
- EAI
- システム間をデータ連携して「つなぐ」考え方で、様々なデータやシステムを自在につなぐ手段です。IT利活用をうまく進める考え方として、クラウド時代になるずっと前から、活躍してきた考え方です。
- ETL
- 昨今盛んに取り組まれているデータ活用の取り組みでは、データの分析作業そのものではなく、オンプレミスからクラウドまで、あちこちに散在するデータを集めてくる作業や前処理が実作業の大半を占めます。そのような処理を効率的に実現する手段です。
- iPaaS
- 様々なクラウドを外部のシステムやデータと、GUI上での操作だけで「つなぐ」クラウドサービスのことをiPaaSと呼びます。
「iPaaS」や「つなぐ」技術に興味がありますか?
オンプレミスにあるITシステムからクラウドサービスまで、様々なデータやシステムを自在に連携し、IT利活用をうまく成功させる製品を実際に試してみてください。
「つなぐ」ツールの決定版、データ連携ソフトウェア「DataSpider」および、データ連携プラットフォーム「HULFT Square」
当社で開発販売しているデータ連携ツール「DataSpider」は長年の実績がある「つなぐ」ツールです。データ連携プラットフォーム「HULFT Square」はDataSpiderの技術を用いて開発された「つなぐ」クラウドサービスです。
通常のプログラミングのようにコードを書くこと無くGUIだけ(ノーコード)で開発できるので、自社のビジネスをよく理解している業務の現場が自ら活用に取り組めることも特徴です。
DataSpider / HULFT Squareの「つなぐ」技術を試してみてください:
簡易な連携ツールならば世の中に多くありますが、GUIだけで利用でき、プログラマではなくても十分に使える使いやすさをもちつつ、「高い開発生産性」「業務の基盤(プロフェッショナルユース)を担えるだけの本格的な性能」を備えています。
IT利活用の成功を妨げている「バラバラになったシステムやデータをつなぐ」問題をスムーズに解決することができます。無料体験版や、無償で実際使ってみることができるハンズオンも定期開催しておりますので、ぜひ一度お試しいただけますと幸いです。
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